学校の落ちこぼれ少女が宇宙飛行士に……藤本タツキが絶賛する『ありす、宇宙までも』のドラマチックな魅力

生きづらさを抱えた主人公たちの逆転勝利

 『ありす、宇宙までも』で挑戦的なテーマが描かれていることは間違いないが、同じような題材に取り組んだ作品として、2023年製作の映画『哀れなるものたち』が挙げられる。同作はヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演による作品で、いわば現代の女性版フランケンシュタインとでもいうべき物語だ。

 同作の主人公・ベラは若い女性の姿をしているが、天才外科医・ゴッドウィンの手によって胎児の脳を移植された存在。そのため世界のことを何も知らず、世間の常識なども一切身に付いていない。劇中では彼女がさまざまな知識を身に付けていった結果、世界の見え方が変化していくところが描かれている。

  社会はどんな風に成り立っているのか、人は何のために生きるべきなのか、自分の存在とは一体何なのか……。新たなことを知るたびに、それまで見ていた光景が別物へと変わっていく。

 また、主人公が無知だった頃は周囲から“かわいがられる”だけの存在だったが、知識を身に付けることで1人の人間として生きる幸せを発見していく……というところも、ベラとありすの共通点だ。彼女たちの劇的な成長は、知識が人間らしく生きるための武器だということを教えてくれる。

  さらに同じ“宇宙”と関連するマンガとして、泥ノ田犬彦の『君と宇宙を歩くために』にも触れておくべきかもしれない。同作は勉強もバイトも続かないヤンキーの小林が、周囲から変わり者と敬遠される転校生・宇野と仲良くなったことで、新たな生き方を学んでいく物語だ。

 小林と宇野は“普通”ができないことに苦しんでいて、それを克服するための道を少しずつ模索していく。ここでも武器となるのは知識と知恵であり、世界の見え方が変わっていく描写には感動を呼び起こされる。

 ともあれ『ありす、宇宙までも』が『哀れなるものたち』や『君と宇宙を歩くために』と違うのは、第1話の時点で宇宙飛行士船長というゴール地点が示されていること。すでに分かっている結末に向かって、どのように物語が進んでいくのか……。アクロバティックな構成も含めて、今後の展開がもっとも楽しみな作品の1つだ。

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