「資本主義はそもそも道徳的で良いもの」 マルクス・ガブリエル『倫理資本主義の時代』講演レポ

マルクス・ガブリエル講演レポ
マルクス・ガブリエル『倫理資本主義の時代』(ハヤカワ新書)

 世界的な注目を集める哲学者マルクス・ガブリエルが来日し、8月28日に東京大学・安田講堂で講演会「なぜいま、倫理資本主義なのか」に登壇した。

 日本の読者に向けて書き下ろされた新刊『倫理資本主義の時代』(ハヤカワ新書)の刊行記念イベント。同書では、現状の行き詰まった資本主義に対する打開策として、道徳的価値と経済的価値を再統合した「倫理資本主義」を提唱している。講演ではその新概念について詳しく解説をした。

 最初にガブリエル氏は「資本主義」と「倫理」の定義を整理することが重要だと語る。資本主義は搾取や環境破壊などの諸悪の根源だという見方に対して、そもそもは「道徳的で良いもの」なのだと主張した。

 そして、資本主義の構成要素を3つ(1:生産手段の私的所有、2:契約の自由、3:自由市場)に分けて解説する。

 1つ目は「生産手段の私的所有」。生産手段という言葉からは工場や機械などが連想されるが、現代の資本主義においては必ずしもそれだけを意味しないとのこと。シリコンバレーのIT企業を見れば顕著なように「お金、サービス、特定の知識など」が生産手段となっている。

 2つ目は「契約の自由」。資本主義以前の封建主義の時代と比較しても、現代は奴隷制のように労働者が不当に従属させられる働き方とはなっていないと主張する。さらに現代は「自分の能力を自由に売ることができる」。ただし、この1、2の条件において問題がある企業は、法制度によって規制されることも付け加えた。

 3つ目は「自由市場」。共産主義・戦時経済と比較し、資本主義は自由に市場に参入できることを指摘する。特に現在のロシアの「中央集権的な計画経済」の自由のなさを引き合いに出しながら、自由市場の重要性を説いた。さらに自由市場が機能した場合には、人々がお互いに助け合う相互扶助の社会になるのだという。

 続いて「倫理」とは何かについて「有意義な倫理的な質問に対しての真の答え」だと解説。その上で、「もしあなたがプールで冷たいビールを飲もうとしていて、3歳の子どもが近くの浅いプールで溺れていたら何をすべきか」と問いかけた。そこでは「ビールがぬるくなろうとも、子どもを救うこと」が倫理的な判断となる。

 そうした倫理的な事実は「普遍的なもの」だが、「実際の世界、特にビジネスの世界ではそのように単純でもない」ことも付け加える。そこには日本、ドイツなど各国文化特有の文脈もあると指摘した。

 以上の概念を整理した上で、道徳的価値と経済的価値を掛け合わせた「倫理資本主義」を提唱した。例えば、二つの企業があって生み出す利益は同じであったとしても、環境に配慮し搾取を行わない企業のほうが倫理的であると指摘。そして結果的には、そうした企業が持続可能で長期的なビジネスを展開できるとした。

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