氾濫する「令嬢・王道展開」漫画なのになぜヒット? ブックライブ担当者に聞くビッグデータ戦略
■データから見る女性のニーズ 現代の「スパダリ」像に変化が
――「令嬢もの」の主な読者層は女性ですね。漫画のキャラクター像は時代を映す鏡でもありますが、ビッグデータから見えてくる理想の男性像(=女性のニーズ)とはどのようなものでしょうか。
田中:やはり「スパダリ(スーパーダーリン)」は人気があります。昔は三高(高学歴・高収入・高身長)が理想とされていましたが、スパダリはその延長線上で、優しい・ハイスペック・イケメンといったパーフェクトな男性像です。ただマンガ広告におけるスパダリはこの数年の流行で、それ以前は読んでいてスカッとするような、勧善懲悪ものが主流でした。
――コマ数が限られた広告バナーで、そのスパダリぶりをアピールすることは可能なのでしょうか。
田中:最近のバナーはコマ数もありますし、動画形式のものもあるので十分可能です。ポイントとしては、まず序盤のカットでとにかくイケメンぶりをアピールすること。そこから地位や肩書き、才能といったスペック面が続き、もともとの性格や関係性を描き、最後はヒロインを溺愛する様子や優しい一面など、内面の良さを押し出します。ひとつのバナーの中で、小さなストーリーを展開させるわけですね。
――web広告でより読者に届きやすいキャラクターには、どのような傾向がありますか。
田中:これは女性キャラ・男性キャラで違いがありまして、まず女性キャラクターは親しみやすく、応援したくなるような人物像。ライバルに意地悪されても報われてほしいと思えるような、そんなキャラクターが読者を物語に引き込むフックになることが多いです。男性は先ほど挙がったスパダリが圧倒的な人気です。さらにそのスパダリをヒロインと争うのがライバルキャラですが、これはトコトン嫌な性格にしたほうが読者の興味をよりそそるようです。
■ビッグデータもAIも、クリエイターを支援する「道具」にすぎない
――ここまでwebについてお聞きしてきましたが、紙媒体でヒットする漫画との違いはあるのでしょうか。
田中:web漫画はバナーでわかりやすく作品の面白さを伝える必要がありますので、登場キャラクターの相関図はシンプルな方が伝わりやすい傾向があります。総じてweb漫画のほうが展開がスピーディーだと感じます。紙媒体はある程度の長期連載を視野に入れている作品が多いため、じっくり読める漫画が好まれやすいのかもしれません。また紙媒体は単行本1冊分を一区切りとして作られていますが、web漫画は1話単位で一区切りなので、1話ごとのストーリーの作り方も異なることが多いです。
――ありがとうございます。最後にAIについても伺わせてください。今後、AIを活用した漫画制作も検討していますか?
田中:効率的な広告出稿など、マーケティング面ではすでにAIを活用しています。その広告から得たビッグデータを漫画制作に反映しているわけですが、AIそのものは著作権などの諸問題もありますし、クリエィティブな仕事に取り入れるときは注意が必要だと考えています。ですので、現状ではAI支援のもとでシナリオや作画をおこなうことは考えていないです。
今後どうなっていくかはわかりませんが、ビッグデータもAIもあくまでクリエイターを助けるための道具に過ぎません。個人的には「データから何を導き出すか」は人間が自身の頭で考えるべきものと思っていますし、人間の感性をフルに使ってのものづくりをすることで、より読者様のニーズに寄り添える作品が制作できると考えています。