『奇子』『イエロー・ダスト』『アラバスター』……大人になったいまこそ読みたい“黒手塚”作品を振り返る

大人になったいまこそ読みたい“黒手塚”作品

作者も嫌う、徹底的に救われないニヒルな作品

 最後に紹介する『アラバスター』は、美しいものを妬む人間の深い心の闇を鋭く描いたSF犯罪サスペンス。主人公である青年“ジェームズ・ブロック”は、刑務所で謎の老人から生物の体を透明にする光線の秘密を聞いた。そして出所後にさっそく教えてもらったF光線を浴びるのだが、実は光線は不完全なものだった。ジェームズの体は半透明の不気味な体になってしまい、美しいものを憎むようになっていく。

 以降、彼は“アラバスター”と名乗り、“F光線を照射し続けて生物が完全な透明になると死んでしまう”という特性を利用し、世の中の偽善者や美しいことを鼻にかけている人々を次々と消し去っていく。

 美や正義という正体のハッキリしない価値観への懐疑心を描いたこの作品はとにかく暗く、作者である手塚自身も「ここに登場する人物はことごとく嫌い」とコメントしている。

 子供の頃に読んだことがある作品でも、“大人になったいま”読み返すことで考えさせられることがある。興味のある人はぜひ“黒手塚”作品を読んでみてはいかがだろうか。

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