杉江松恋の新鋭作家ハンティング とにかく変な特殊能力バトルものの小説ーー五条紀夫『イデアの再臨』

とにかく変な小説『イデアの再臨』

 だいたい紹介していいのはこのくらいだろう。世界から次々に要素が失われていく物語といえば、最も有名なのは筒井康隆のアレである。あえて題名は書かない。『イデアの再臨』風に標記すると『     』である。現在は「    」に入っていて容易に手にとれるので、ぜひ本作と併読してみていただきたい。題名は上に書いた情報で検索すればだいたいわかるはずだ。

 筒井康隆のアレは超絶技巧の小説だったが、本作もなかなかおもしろいことに挑戦している。何かが失われるたびに世界が少しずつ変わっていく。なぜそうなるのかは伏せておくが、たとえば主人公の幼馴染で学園一の美少女である白鳥姫子さんは、最初は標準語でしゃべっていたのに、後半では怪しい関西弁になってしまう。そうなる理由は秘密である。

 もう一つ書いてしまっていいだろう。本作は特殊能力バトルものでもある。異変の背後にいる犯人は上の記述でわかるとおり、世界から何かを消す能力を持っているらしい。それに対抗する安藤竜と「僕」にも別の能力があることがやがてわかるのである。「僕」のそれは、え、そんなことできて、いったい何になるの、というようなものだ。でも、何に使えるかわからない属性を持っているやつがいちばん活躍するというのが特殊能力ものの定石なんだよなあ。

 小説全体の趣向についてはあまり書かなかったので、実際に読んで確かめてみてもらいたい。変な小説を書くものである。作者の五条紀夫は2022年に『クローズドサスペンスヘブン』(新秒文庫nex)で新潮ミステリー大賞の最終候補に残り、同作でデビューした。これもいわゆるクローズドサークルもののお約束を逆手にとった作品で、ジャンルに新風を吹かせるような内容であった。こういうものを読むときは、あまり前情報がないほうが楽しめると思う。作者の奇想を十分に味わっていただきたい。これまでの紹介で、とにかく変な小説だということだけはわかっていただけたはずだ。

 何がなんだかわからないけどとにかくおもしろそうだ。

 そう思って読んでいただければ幸いである。

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