西尾維新、ジャンプ読者に何を伝えようとした? ド直球だった『暗号学園のいろは』のメッセージとは

『暗号学園のいろは』連載終了

  『化物語』に始まる〈物語〉シリーズや『刀語』、戯言シリーズなど、数々のヒット作を生んできた小説家・西尾維新。作風としてファンタジー寄りの世界観を描くことも多いが、先日完結を迎えた『暗号学園のいろは』は読者に現実を突き付けるような仕掛けとなっており、これまでになく切実でリアルな作品となっていて、完結には惜しむ声が上がっていた。

 『暗号学園のいろは』は『週刊少年ジャンプ』(集英社)に連載されたマンガで、西尾は原作を担当、作画は岩崎優次が担当している。その内容は暗号解読によって戦う少年少女の物語で、言葉遊びを盛り込んだ“西尾ワールド”が展開されていく。

  ただ、暗号という題材の性質上、“戦争”の影が終始チラついているのも特徴。そもそも物語の舞台となる暗号学園からして、「次なる大戦」に向けて暗号兵を育てるための軍人学校で、第1話のサブタイトルは「第四次世界大戦は紙と鉛筆でおこなわれる」だ。作中では、戦地からハンドサインでSOSを求める人物も登場する。

  その一方で、作品を通底しているのは平和主義の精神。主人公・いろは坂いろはは入学当初、「戦争は人間の業だからなくせるわけがない」という風刺を信じていたが、その後「世界で起きてる戦争を全部停める」という大言壮語ともとられかねない目標を掲げるようになる。

  同作にかぎらず、少年マンガのヒーローが争いのない世界を夢見るのはよくある設定だろう。しかしこのテーマは、“戦いを止めるための戦い”という致命的な矛盾を避けることができない。争いの火種となる悪を倒すためには自身も武力や暴力に訴えるしかなく、それがまた新たな争いの火種を生んでしまうからだ。

  それに対して『暗号学園のいろは』は暗号、すなわち紙と鉛筆による非戦(たたかい)という設定を持ち込むことで、このジレンマを巧妙にすり抜けている。物語の序盤で「暴力をふるわなくてもヒーローになれる」というセリフが登場するのだが、その言葉通り、いろはは紙と鉛筆で戦争を停める非戦のヒーローへと成長していく。

 また本編終了後に『ジャンプ+』で公開され、単行本7巻にも収録された『特別番外編』では、さらに非戦のメッセージが直接的に打ち出されている。

 本編の後日談として、暗号学園の生徒たちが参加した修学旅行の模様が描かれるのだが、その行き先は戦争の爪痕が残る場所ばかり。沖縄県のひめゆりの塔、真珠湾奇襲が行われたハワイ州オアフ島パールハーバーのアリゾナ記念館、ドレスデン爆撃で崩壊した建物のがれきによって再建されたドイツのフラウエン教会などだ。そして最後にはクラスメイトたちがフラダンスを踊り、焚き火を囲みながら一緒にお菓子を食べる……という平和の極致のような風景で幕を閉じている。

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