「センスが良い」とはどういうことなのか? 哲学者・千葉雅也が提唱する、AI時代のセンスの磨き方

千葉雅也『センスの哲学』を読む

 本書の表紙にも使われている、アメリカの美術家ロバート・ラウシェンバーグが制作した『Summer Rental + 1』(1960年)。この抽象絵画について著者は、ものごとをリズムとして捉えるための教材として取り上げ、一度だけでなくセンス論の要所要所で言及しては、さまざまな解釈の可能性を読者に提示する。

〈餃子を食べるときの口の中というのはこういう感じじゃないか〉と冗談混じりに言いつつ、絵の中の文字や色の並びの味わいを楽しむ「料理的鑑賞」をしてみる。精神分析家のジャック・ラカンが「不快かつ快」の状態であることを指した「享楽」の概念を当てはめ、わかろうとすることへの裏切りを楽しむ作品の一種と位置付ける。汚れたような色彩を多用するのはなぜか、戦争との関連性や作風など作者個人に着目してみる。

 著者の思索は、『Summer Rental + 1』の秘密を探る推理物のようにも読める。そして何より、一つの作品が鑑賞者の自由な解釈により変身を重ねながら、後世に残っていく。その過程を目撃しているような感覚にもなる。

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