薄利多売の書店、脅威の万引き被害の実態ーー今と昔で変わった動機「フリマサイトを疑心暗鬼で見てしまう」
書店の経営に深刻なダメージを与えるといわれるのが、万引きである。以前、万引き被害の大きさゆえ、経営が成り立たなくなって店を閉めたという書店もあった。薄利多売のビジネスモデルをとる書店にとって、万引きは深刻な問題である。昨今の実態はどうなっているのだろうか。都内にある書店の店長に話を聞いた
「万引きの件数は以前よりは減ったと思います」と話すのは、都心のある個人経営の書店の店主である。「そもそも、コロナ禍以降は書店を訪れる人の数が減りましたから、結果的に万引きは減りました。ただ、万引きの性質は、20年前と今ではだいぶ変わったように思います」
書店の万引きの場合、一昔前はゲーム感覚で盗むという単純な動機(であっても犯罪であることに変わりはないが)や、「本当に自分が読みたいから」という動機の犯人も少なからずいたであろう(繰り返すが、どんな理由であっても犯罪であることに変わりはない)。
店主の書店で20年前に特に深刻だったのは、DVD付きの成人誌であった。これは単価が大きいため、1冊盗られた場合のダメージが大きい。これはまさに、「万引き犯が自分で読みたいから」盗む典型といえそうだ。しかし、現在の万引きはフリマサイトなどで販売する、いわば転売目的で盗む例が増えているという。
「人気の漫画の単行本がごっそりと盗まれる例もある。売れ筋はレジの前に置くなどの対策は講じていますが、相手も手慣れたものというか、プロというか、ちょっとした隙を狙って盗んでいきます。これにはまいりますね。フリマサイトにあまりに状態のよい帯付きの単行本のセットが出ていると、盗んだものなんじゃないかと疑心暗鬼になってしまう」
防犯カメラの設置などの対策を急ぐが、犯人の検挙にはなかなか結び付かない。店主も普段から目を光らせているというが、ここにもコロナ騒動の弊害が出ている。マスクの着用が一般的になり、サングラスなどをかける人も増えたため、怪しい人物をマークするのも難しいのだという。
子どもの万引きも後を絶たないというが、店主によれば、未成年の万引きには明確な対策方法があるのだという。
「捕まえたら、一にも二にも警察と学校、保護者に通報することですね。昔は反省さえすれば、黙って帰していたんですよ。でも、帰した子どもがまた捕まえるパターンが本当に多かった。やむなく通報したら、万引きはピタッと止まったんですね。どうやら、その子どもの友人もうちで万引きしていたらしいのですが、うちは通報するとわかったので、ターゲットにしないようにしたのでしょう」
子どもたちの口コミ効果は絶大であるゆえ、防止効果は高かったようだ。しかし、店主はこうも話す。
「今では店にやってくる子ども自体が減ってしまった。万引き犯との攻防を繰り広げていたころの方が、店に活気があったのは事実です。子どもが本に興味を持たなくなっていることが、如実にわかるのがつらいですね」