劇場アニメ化決定の『ルックバック』、注目は“後ろ姿”の描写? タイトルの意味とメッセージを考察

劇場アニメ化決定の『ルックバック』、注目は“後ろ姿”の描写? タイトルの意味とメッセージを考察

※本稿は漫画『ルックバック』のネタバレを含みます。

 「このマンガがすごい!2022」1位に選ばれた『ルックバック』(藤本タツキ)。本作の劇場アニメ化が発表された。映画化の発表とともにティザービジュアルと特報映像として主人公・藤野が机に向かう後ろ姿が公開されている。

劇場アニメ「ルックバック」特報

 本作を読んだ方はご存知だと思うが、本作の最後には振り返らない、前を向くとある人物の姿が描かれる。しかしタイトルが“ルックバック(振り返る)”なのはなぜか。本稿では、あらためてその意味を考察していきたい。

背中を向けて絵を描きつつ、ときに振り返る藤野の姿

 『ルックバック』の第1ページ・1コマ目の右上、多くの読者がまず目にする箇所に「don't」、そして最後のページの左下、多くの読者が最後に目にする箇所に「in Anger」という文字が描かれている。これらの単語とタイトルを組み合わせると『Don't Look Back In Anger』となり、イギリスのロックバンド・Oasis(オアシス)の楽曲名となる。

 ゆえに読者の間では本楽曲をオマージュして『ルックバック』と名付けられたのではないかと考察されている。しかし本作には、“振り返る”描写だけでなく、“振り返らない(背中を映す)”描写が数多く存在する。

 物語序盤、教室の最後方に座る小学4年生の藤野は前の座席にいる生徒から学級新聞を受け取る。その新聞に掲載された藤野の4コマ漫画は教室内で話題に。そのあと学校に通えていないクラスメイト・京本の4コマ漫画も学級新聞に掲載することとなる。

 「学校にもこれない軟弱者に漫画が描けますかねぇ?」と話していた藤野であったが、京本の漫画を目にすると口を大きく開けた。開いた口が完全には閉まらないまま歩く帰路。藤野は叫びながら走り出し、藤野は絵の練習をはじめる。作中では季節が移ろうなか、自室で、教室で、図書館で……ただただ絵を描く藤野の“背中”が連続して描かれることとなる。

 ときに友人からの遊びの誘いを断り、絵を描いていた藤野の漫画が再び紙面に映されたのは小学6年生の学級新聞だった。藤野の漫画のとなりには2年前と変わらず京本の漫画が並ぶ。藤野の表情、目元が描かれたコマのあと「や~めた……」と小声で発し、学級新聞を後方の生徒に回すために藤野は“振り返り”、放課後に友人と遊ぶ約束をした。

 絵を描くことを辞めた藤野であったが、小学校卒業時にはじめて京本と出会う。京本との出会いをきっかけに藤野は京本と2人で漫画を描くことに。再び藤野の“背中”、その後方に京本がいる景色が連続して描かれた。

振り返りながら歩んだ藤野と、振り返らないもう1人の藤野

 2人は漫画賞を受賞するなど、漫画家としての実績を積み上げていく。そして高校を卒業するタイミングで商業媒体での漫画連載が決定。その知らせに喜ぶ藤野に対し、京本は美術大学へ進みたいという思いを抱いていた。

 京本に対し藤野は背中を向けながら「まあ…まあ~いいんじゃない?」と口にしつつ、藤野は“振り返り”、感情的な言葉をぶつけながら京本と対面した。しかし藤野は1人で漫画を連載することとなり、作家として漫画を描き続ける藤野の“背中”が連続して描かれる。

 そんななか藤野はとある事件の一報を“振り返り”目にする。

 漫画の連載を休止し、京本の部屋を訪れた藤野。とある不思議な出来事をきっかけに藤野は”振り返り”、京本の部屋に飾られた、小学生時代に自身がサインを記した京本の服を目にする。そのあと再び自身の机に向かう藤野の“背中”が描かれた。

 何度も振り返りながら、前を向き、他者に背中を向け、歩みを進める藤野。そんな藤野の姿が描かれる物語だからこそ、本作のタイトルは『ルックバック』なのではないのだろうか。

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