アオアシ、僕とロボコ、正反対な君と僕……「平」と名のつくキャラはとにかくいいヤツ説
自分のダサさを知っているから優しくなれる『正反対な君と僕』平
最後に紹介したいのは、明るく元気なギャル・鈴木と物静かだけど芯のある男子・谷くんの恋愛模様を描いた作品『正反対な君と僕』(阿賀沢紅茶)に登場するクラスメートの1人、平だ。
過去の経験から自分に自信が持てず卑屈になってしまうことも少なくない。ふとした瞬間に中学時代や初めて異性と付き合った際の苦々しいエピソードが顔を出し、自分のダサい部分を知られたり笑われることを極端に怖がっているきらいがある。陽キャが目立つ本作の登場人物の中でも、とりわけ内面の鬱屈とした感情が吐露されていることの多い平。正直に言ってしまうと重く、面倒臭い部分が前面に出てしまうキャラではある。それでも断言したいのが、平は友達に対してはどこまでも誠実で、不器用なりに相手を気遣うことができる良い男だということだ。
1つエピソードを紹介したい。平が通う高校には同じ中学出身のクラスメート、東という女友達がいる。平とは正反対の性格で、人間関係もそつなく器用にこなせる反面、自分の感情を後回しにしてその場をやり過ごしてしまうことに慣れてしまっている。ある日、高校のクラスメートとボーリング場に遊びに行った際にたまたま出くわした元カレが、東に雑な連絡をしてきたことがある。
いつものように受け流そうとしていた東に対して「雑に扱われてんだからちゃんと怒れよ!」と当事者すら見過ごそうとしていた気持ちに対して、「東だけがすり減っているのは絶対におかしい」と自分の気持ちを伝える平。その翌日に、自分の勝手な自論を振り回してしまったことを反省して東に謝るところも含めて平というキャラクターの不器用な優しさがひしひしと伝わってくる。平に共感する読者はかなり多いのではないかと予測している。とにかく平には幸せになって欲しい。
公平であり平和の象徴、それが平
その他の作品では、ハロルド作石の名作バンド漫画『BECK』に登場する“平くん”こと平義行も、バンドの精神的支柱であり、大人で優しい作中トップクラスの好人物だ。いささかのこじつけ感もあったかも知れない。しかしながら、漫画という広大な海の中でふとこうした偶然にも似た繋がりを発見できることは、一読者にとっては小さくない喜びではないだろうか。
名は体を表すという言葉もあるが、平という漢字には「特別のことがなくておだやか」という意味がある。当たり前のようにそこに居る、ただそれだけで穏やかな気持ちになれる存在を示唆しているようにも感じる。もしかすると、今回紹介したキャラクター達が生まれた背景には、そんな想いが込められていたのかも知れない。ぜひ作品を手に取って、確認してみてほしい。