解読『ジョジョの奇妙な冒険』Vol.2 スタンドという“発明”ーー他に類を見ない表現と概念を考察

『ジョジョ』スタンドという“発明”

 漫画家・荒木飛呂彦最大の「発明」といえば、それはもちろん、「スタンド」という革新的な超能力表現ということになるだろう。そこで今回は、このスタンドについてあらためて考えてみたいと思う。

連載第一回「“ジョジョ”という名の時代を越えたヒーローたちの誕生」

スタンドとは何か

 まずは、そもそもスタンドとは何か。それは、簡単にいえば、人間が引き出す精神的なエネルギーの具現化であり、シリーズ初期(第3 部)では、「幽波紋」の漢字が当てられている。

 その多くは人型のヴィジョンを持って現われ、「スタンド」の名のとおり、能力者の傍に寄り添うように“立ち”、なんらかのスーパーナチュラル(超自然的)な行いをする。また、「遠距離操作型」と呼ばれるタイプのスタンドも存在し、それらは能力者から離れて自由に動くことができる。

 なお、スタンド能力が発現した者のことは「スタンド使い」と呼ばれるのだが、むろん、誰でもなれるというわけではない。スタンド使いになれるのは、大きく分けて以下の4パターンのいずれかの条件を満たしている場合に限られる(もちろん例外もある)。

1:生まれつきスタンド能力を持っている。
2:スタンド使いの血族として生まれた。
3:特別な「矢」に射抜かれたことがある。
4:特別な「場所」を訪れたことがある。

 また、以下のようなルールも存在する(こちらにも例外はある)。

1:スタンドはスタンド使いにしか見えない。
2:基本的には1人につき1能力。
3:スタンドが傷つけば、本体(スタンド使い)も同じように傷つく。
4:スタンドが消滅すれば、本体も死ぬ。また、本体が死ねば、スタンドも消える。

他に類を見ない表現と概念

 さて、以上が大まかなスタンドの説明であるが、さまざまな形で漫画表現が進化したいまの感覚であらためて考えてみても、このスタンドという超能力表現は、あまりにも斬新なものだったように思う。たぶん、超能力(ないし精神のエネルギー)を、あのような形(見たことのない方はぜひ一度ご覧いただきたい)で可視化したのは荒木飛呂彦が初めてではなかったか。

 誤解を恐れずにいわせていただければ、荒木は、80年代初頭に大友克洋が『童夢』や『AKIRA』などで極めた漫画の超能力表現に、別の形での(それもとびきりトリッキーな)可能性があるということを提示したといっていい(さらにいえば、そのトリッキーなヴィジュアル表現に、緊張感のある頭脳戦・心理戦の要素を組み込むことで、唯一無二のバトル表現を生み出したともいえよう)。

 むろん、それまでにも、ホラー漫画などで、“守護霊が出現する”描写を似たようなヴィジュアルで表現した作品はあったかもしれない。しかし、守護霊が憑依している人間とは別の自立した存在であるのに対し、スタンドはスタンド使いのエネルギーが具現化した意識のないヴィジョンなのである。(例外的に自我を持ったスタンドも存在するが)この違いは大きいと私は思う。

 また、「かまいたち」や「ぬりかべ」など、一部の妖怪は、日常生活の中で時おり起こる不思議な現象に形を与えたものであり、スタンドの概念と近いといえば、近い。だが、妖怪の姿はあくまでも人間の想像力が生み出した実在しないものであり、スタンドは、スタンド使い同士にとっては、目に見える、つまり、実在するものなのだ。

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