大森望 × ティモンディ前田「巨人たちの星」シリーズ対談 「全然古さを感じない、今読んでも響く作品」

「巨人たちの星」シリーズ対談

皮肉が効いていて古さを感じない作品

ーー続いて第三部『巨人たちの星』では、いよいよ自分たちも宇宙に向かうという、冒険譚のような趣向に変わってきます。

大森:『巨人たちの星』は、だいぶ作風が変わっていて、ゲーム的に作戦を立てて敵と闘う、権謀術数のスパイアクションです。ホーガンは後年、テクノスリラーのような作品を書くようになったのですが、手に汗握るサスペンスも書ける人だったんでしょうね。特に後半の敵と戦うシーンではすごく盛り上がります。

前田:これぞまさにSFという感じがしますね。Netflixなどで映像化するならば、『巨人たちの星』がエンターテインメントとして面白い作品になりそう。それを考えると、部屋のなかで議論していた『星を継ぐもの』が異質だったのかな、と改めて思いますが。

ーー本作の宇宙戦争についてはどのように考察されますか。

大森:『星を継ぐもの』が出た頃は、ちょうど映画『スター・ウォーズ』が公開された後で、宇宙戦争ものがすごく流行り始めた時期でした。ミリタリースペースオペラなどで、宇宙でドンパチやるのが人気だった。しかし、そういうんじゃないだろう、という感覚は多分ホーガンの中にあったと思うんですよね。

 『巨人たちの星』では、戦争自体は壮大な作戦を立てて、大きな文明同士がぶつかり合う構図なんだけど、実際にはほぼ情報戦なんです。物理的な戦闘をしなくても、情報戦で勝てば、すべて制圧できると。だからコンピューターを侵入させるという一つの目的のために、敵の内部にスパイを送り込んだり、裏切り工作をしたりといろいろな手を使う。そのなかで真相を探って、敵の欺瞞工作の裏を暴いていきます。

 その背景には、ガニメアンはすごく優しくて騙されやすいという性質がある。すぐ人を信用してしまうんですよね。それで地球人が一生懸命心配する(笑)。ガニメアンに任せておいて大丈夫なのか。作戦など立てたことがないだろうから、誰かコーチする人間が脇についてないとだめじゃないかと。

前田:ガニメアンはこれまで生存戦略の上では、戦争をして誰かを蹴落とす必要がなかったんですね。このシリーズの戦争に対する描写を今読むと、色々と考えさせられます。いずれは地球人も戦争などしなくなると見立ててあるわけですが、しかしウクライナや台湾の情勢などを見ると、現在も人々は変わらず戦争をしている。本当に皮肉が効いているなと思いますね。そういう意味でも、全然古さを感じない、今読んでも響く作品だと思います。

大森:作品内では、地球人がかつて戦争ばかりしていたことについて、ある宇宙人の欺瞞工作が関連していたことが明かされます。今の実際の世界を見ていると、結局、まだ騙されているかと思ってしまいますね。

物理学的なバックボーンのあるメタバース作品

ーー最後に第四部『内なる宇宙』はいかがでしたか。

大森:ホーガンがメタバースものを書くとこうなるんだなと。普通、サイバースペースやメタバースのバーチャルリアリティを描くと、そのなかで何が起きているかだけが描かれて、どうしてそれが成り立ってるかにはあまり突っ込まないですよ。しかし、ホーガンはそこに物理学的なバックボーンをちゃんと与えています。

前田:僕は『マトリックス』世代なので、そのイメージとともに『内なる宇宙』を読みました。2021年には『マトリックス レザレクションズ』という続編映画も出ましたが、『内なる宇宙』の仮想世界はまたちょっと違うテイストがあります。

大森:『マトリックス』の場合、仮想世界と外の世界は完全に断絶しているんですが、ホーガンは両者の間を書いているところに特徴があると思います。

ーー大森さんはホーガン本人に会ったことがあるそうですね。

大森:彼が1986年に日本SF大会のゲストで大阪に来た時に会いました。僕が会ったホーガンは、やたら陽気な酔っ払いのおっちゃんでしたね。オヤジギャグ的な冗談を言いまくる困った人(笑)。

前田:そうだったんですか。それはイメージと違いました(笑)。ゴリゴリのオタクのようなタイプかと思っていました。

大森:東京では新宿のゴールデン街を飲み歩いていました。まだ馳星周がバイトしてたころの「深夜+1」にも毎晩行ってたんじゃないかな。大阪でも散々飲んで、夜が更けても全然ホテルに帰らないから、編集者がしびれを切らして、「ちゃんとホテルの鍵を持ってますか」と聞くと、「オレは大阪中のホテルの鍵を全部持ってるから大丈夫だ」とか言ってね。放っとくといつまでも飲んでるから大変でした(笑)。直接ホーガンと会った人たちは、みんな強烈な印象を抱いているはずです。ところで前田さんは、どの作品が一番好きですか。

前田:一番衝撃を受けて面白かったのは、『星を継ぐもの』でした。その説得力、そして他のSF小説にはない面白さがありました。東野圭吾さんや湊かなえさんなどのミステリ好きな人だったら、絶対に面白く読めるはずです。最後は全く想像もしないような帰結が導かれます。

 そして現代よりも未来の話をしているのに、感情移入することもできました。第一部では、主人公のハントの相棒となる生物学者・ダンチェッカーはあまり好きじゃないなと思うんですが、シリーズが進むにつれて、思ったより悪い奴じゃないなと好きになっていくのも面白い(笑)。作品に自分が入り込めているということだと思います。

大森:そうですね。そして、エンタメ好きな人だったら、第三部『巨人たちの星』で楽しめるでしょう。宇宙戦争のエピソードは『ミッション・インポッシブル』や『アベンジャーズ』みたいな興奮を味わえるはずです。

前田:シリーズ全部だと長編だと感じるかもしれませんが、実は読みやすくお話もしっかりしていて、全然無駄がないように感じます。SFファンでない方も、ぜひ読んでもらいたいです。

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