151年の歴史を持つ科学誌「Popular Science」休刊 編集者に聞く、科学が注目される中でも相次ぐ苦境の理由
1872年に創刊され、約151年の歴史を持つアメリカの科学雑誌「Popular Science」の休刊が決まった。国内でも、10月5日に朝日新聞出版が、国内最大の科学雑誌として知られる「Newton」を発行する出版社「ニュートンプレス」の全株式を取得したと発表したばかり。出版不況の中、科学雑誌の再編が今後も起こるのか、注目される。
「Popular Science」は月刊誌として刊行されていたが、2016年1月から隔月刊誌へ。2018年9月には季刊誌化。そして2021年にはデジタルマガジンのみでの刊行形態になったのち、わずか2年後に休刊が決定してしまった。歴史をもつ科学雑誌も、時代の変化には逆らえなかった。なお、公式ウェブサイトの「PopSci.com」はニュースサイトとして存続される見込みだが、雑誌「Popular Science」は完全に消滅することになる見込みだ。
国内でも、紙媒体がなくなりつつも電子版として刊行が続く科学雑誌に「Biophilia」があるが、科学雑誌は紙で読みたい、という需要が高いのであろうか。論文などを掲載する学術誌などと異なり、一般向けの科学雑誌は見開きなどのビジュアルが重視され、さらに本棚に揃えるなどの所有欲を満たす仕様でもある。そのため、なかなかデジタルマガジンの需要を高めるのは難しいようだ。
科学系雑誌に詳しいライターによれば、「Nature」「Science」などのいわゆる論文が掲載されている学術誌が潰れるようなことは、よほどのスキャンダルや、TwitterがXになったような買収劇などでもない限りはありえないと言われる。いわゆる、金を積めば論文が掲載できるような「ハゲタカジャーナル」が問題になっているが、日本人研究者にも、論文を量産するためにそうした雑誌を利用する人物が一定数いる。しかし、ハゲタカジャーナルが増えれば増えるほど、「Nature」「Science」の権威は高まるとみられ、安泰になるという。
対して、一般向けの科学雑誌は苦しい展開が予想されている。今後、生き残っていくためにはどうすればいいのか。子ども向けの科学の書籍を編集する、現役の編集者に話を聞いた。
「今の世の中、決して科学への関心が低いわけではないと思います。子どもたちの理科離れは昔から言われているけれど、そんなのは嘘。あくまでも印象論ですが、ノーベル賞受賞者が相次いでいることで、科学への関心は高まっていると思います」
そう話す編集者は、これほど科学が進化しているにも関わらず、雑誌の内容や構成が旧態依然であることが問題ではないか、と指摘する。
「YouTubeなどの動画サイトを見れば、子どもの好奇心を掻き立てるような科学系の動画はたくさんある。一方で、書籍や雑誌は、それを超える面白さを提供できているでしょうか。デジタルマガジンでは動画へのリンクを至るところに貼り付けるとか、まさに科学の進歩を反映させた構成にしないと、ただビジュアルがきれいだとか、研究者のインタビューが載っているだけでは見向きもされないと思います」
雑誌も時代によって変わっていく必要がある。少なくとも、一般向けの科学雑誌は、過去の人気記事へ傾倒した編集方針だけではなく、誌面作りなどを今一度見直す局面にあることは間違いないだろう。