国内最大の科学専門誌「Newton」、朝日新聞出版が全株式取得 狙いは“大人の教養”と“教育インフラ”の強化?

  朝日新聞出版は10月5日、国内最大の科学雑誌として知られる「Newton」を発行する出版社「ニュートンプレス」の全株式を取得したと発表した。同社は今後、朝日新聞グループとなり、出版活動が継続される。

  1981年に創刊した「Newton」は視覚的にも美しいビジュアルが満載で、科学を一貫してわかりやすく伝える編集方針をとり、学校の図書室の定番雑誌の一つであった。特に進学校の図書室では広く読まれ、この雑誌を見て科学者を志した人は数多い。

  特に、自然科学分野のノーベル賞の受賞者が決まった際はより力が入った誌面が構成され、「Newton」でしか読めないインタビュー、わかりやすい解説が掲載されることが多かった。その誌面は子どもたちから教師、学者、さらには科学記者にも大いに参考にされた。

  しかし、2010年以降は出版不況の煽りを受ける形となり、部数も低迷していたといわれる。特に、2017年に前社長が出資法違反の容疑で逮捕され、民事再生法の適用を申請したことは大きなダメージとなった。現在は債務の返済が続行されていたが、朝日新聞グループのもとで誌面の充実を図ることになる。

  10月5日付の朝日新聞の報道によると、ニュートンプレスの高森社長は「朝日新聞出版の広告獲得力、営業力、企画力、書店との深いコミュニケーションにより、ニュートンプレスの成長も促進される。新聞の読者層はターゲットが重なるので、新たな成長も期待している」とコメントした。

  専門誌の休刊は2010年以降に相次いでおり、2020年以降はコロナ禍の影響でその勢いが加速した。2022年は専門誌の休刊が続き、3月には歌舞伎専門誌の「演劇界」が、7月には柔道専門誌の「近代柔道」とボクシング専門誌の「ボクシングマガジン」が、12月には美少女ゲームの専門誌の「電撃G's magazine」が休刊している。今年も7月5日発売のSummer号をもって、音楽雑誌の「Player」が休刊した。

  その一方で、朝日新聞グループの根幹である朝日新聞の部数も、減少が続いている。そんな中で、今回の提携は朝日新聞社にとってもメリットが大きいと考えられる。こうした教養系コンテンツを獲得することで、いわゆる大人の学び直しにも注力し、新規の顧客を確保しようとする動きがあると考えられる。そして、朝日新聞がこれまで蓄積してきた膨大な情報量と取材力は、「Newton」の誌面作りにとってもプラスになることは間違いないだろう。

  電子書籍で読まれる雑誌も多いが「Newton」はやはり紙媒体ならではのビジュアルの美しさが魅力的な雑誌である。未来の科学者を育てる意味でも、一種の教育のインフラのひとつと言っていい。朝日新聞出版のもとで再生が図られることは、文化的な意義も大きいと考えられる。折しも、ノーベル賞が話題となる現在。このタイミングで「Newton」に明るい話題が生まれたことを喜びたいと思う。

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