『小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女 3』で分かった、ミオリネという役の演じ方&シャディクというキャラの複雑さ

『小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女 3』で分かった、ミオリネという役の演じ方&シャディクというキャラの複雑さ

 1年前の興奮続きだった時間が蘇る。11月25日発売の『小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女 3』(KADOKAWA)は、株式会社ガンダムの設立を受けてスレッタたち地球寮のメンバーで奇妙なPVを作った2022年11月27日放送の第8話から、2023年1月8日放送でSeason1のラストとなる第12話までのエピソードを収録。学園ドラマとロボットバトルが融合したような内容が、アーシアンの武装組織〈フォルドの夜明け〉に襲撃されたミオリネ・レンブランを救おうと、スレッタ・マーキュリーが衝撃的な行動に出る超シリアスな展開に移る中で、めまぐるしく変化したスレッタやミオリネの日々を今一度振り返ることができる。

 ミオリネがトマトを栽培している温室を、スレッタたちとの決闘を終えたばかりのシャディク・ゼネリが訪ねてくる。「ホルダーになって、キミを守る。――その一言が言えれば、俺も中に入れたのかな」と問いかけてシャディクが去った後、ミオリネは「ばかね」と呟き、「今さらよ」と言って茎からトマトをハサミで切り落とす。

 シリーズが終わった今、相当なくせ者だったことが分かっているシャディクが、青春期にある若者らしさをのぞかせた第9話「あと一歩、キミに踏み出せたなら」のラストシーンだが、高島雄哉による小説版では、「そしてミオリネはためらいなく――あるいはためらいといっしょに――トマトをパチンと切り落とした。」という描写が添えられている。表情など見えないシーンだけに、そこでミオリネがシャディクへの多少の思いを抱えながらも、訣別して前に進む意思を持ったことが分かる。

  『小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女 3』には、ミオリネを演じたLynnが、そのシーンでどのような気持ちをこめてミオリネのセリフを言ったかを、高島雄哉によるインタビューに答えて話している。

  「私は私なりに自分に対しての『バカね』と、シャディクに対しての『バカね』があるという解釈で演っていました」

 幼い頃には仲の良かった2人が、成長してそれぞれに自分を守ろうとしてすれ違い、反発し合うようになっていく。そんな状態から改めて向き合うことができない自分への蔑みと、シャディクへの憐れみが合わさったような複雑な声音だったのかと、インタビューを読んで改めて放送を見返したくなる。トマトを切り落とすだけの行動の中に、逡巡の果ての決断が込められていたんだということも、小説でしか表現できない心情の描写から推察できる。文字で表す小説版の効用と言えそうだ。

 Lynnはインタビューで、「私たちは台本のト書きに書いてあるキャラクターの感情や状況の説明を読んで演じているので、自分たちの演技で視聴者の方に全部伝わればいいんですけど、伝わりきらない部分もあります」とも話している。小説版でそうした感情や状況の説明を読むことで、声優が演じた際の作品の理解に近づくことができる。

 インタビューでは他に、小説の第2巻に入っている#7「シャル・ウィ・ガンダム?」の中で、シャディクがパーティ会場にいたミオリネとスレッタを見送りながら、「変わったよ、君は。……残念だ」と言ったあとに綴られたシャディクの心情描写を挙げて、「アニメではわからない部分」と指摘している。

 #9「あと一歩、キミに踏み出せたなら」でも、起業を邪魔するシャディクに対してミオリネが決闘を言い出す場面で、「これからミオリネが何を言おうとしているのか――シャディクにはわかりきっていた。ただ、その言葉は決して望んだものではなかったけれど」といったシャディクの心情が書き添えてある。直情的なグエル・ジェタークや狡猾そうなエラン・ケレス(強化人士5号)のようには性格を読みづらいシャディクという人物に、グッと踏み込むことができる巻となっている。

  「『そういうことだった』という発見もあると思うので、このノベライズはアニメを観たあとに読むとめちゃくちゃ面白いし、もう一回アニメを観たくなる」とLynn。確かに小説を手にして配信なりBlu-rayなりでアニメを再生して、そのシーンがどのように描写されているか、そのキャラクターがどのような心情なのかを小説を開いて調べてみたくなる。あるいは小説での描写が、どのような映像になっているかを確かめたくなる。

 なにしろ放送から1年が経っている作品だ。なんとなくストーリーは覚えていても、細かいところでどのようなやりとりがあったかは忘れてしまっている。ほとんどすべてのセリフが拾われていて、情景や心情の描写がセリフの間を埋めている小説版を読むことで、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』がどのような物語だったかを思い出すことができるのだ。

 こうなると、第12話「逃げ出すよりも進むことを」で描かれた“ハエたたき"のシーンで、ミオリネの心にどのような感情が走っていたのかを確かめたくなるが、そこは「ついさっきまでいっしょにいたのに、同じスレッタだと思えない」といった程度に抑えられている。恐れや怯えといった具体的な心情に踏み込まずとも、「あまりのショックで身体を全く動かすことができなかった」という情景描写から、相当にショックを受けていたと想像するのが良さそう。続く巻で、スレッタとミオリネのギクシャクとしていく関係の中で、ミオリネが何を考えているかが描写されるのを待ちたい。

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