AI『ブラック・ジャック』11月22日に発売、人間とのコラボによる新作物語、本間血腫がカギになる?

AI『ブラック・ジャック』いよいよ登場

  手塚治虫の不朽の名作である『ブラック・ジャック』の新作を、AIを使って生み出したらどうなるのか。そんな問いに対する答えが、11月22日に発売される「週刊少年チャンピオン」52号に掲載される、新作『TEZUKA2023 ブラック・ジャック 機械の心臓-Heartbeat MarkⅡ』で明らかになる。32ページの読切作品。世代を超えて読み継がれる名作ということもあって、発売前から注目が集まっている

  今回の新作は、手塚プロダクション取締役で手塚治虫の息子にあたる手塚眞氏や、慶應義塾大学の栗原聡氏らが取り組んできた、AIと人間がコラボレーションして作品を生み出す「TEZUKA2023」プロジェクトの一環として制作されたもの。11月20日に行われた記者会見で、数ページ分の画像が公開された。

  いったいどのようにして、新作を生み出したのか。具体的には、AIがこれまでの手塚治虫の作品のデータを読み込み、ストーリーやキャラクターデザインを作成。実際の作画は人間が行っている。いわば、AIと人間の共同作業であり、AIがすべての工程を担当しているわけではない点に注意が必要だ。だが、これは漫画家の創作の根幹となるアイディア出しなどをAIがサポートする形になるわけで、理想とされるAIの使用方法といえるのかもしれない。

  ストーリーについてだが、AI関連の技術をもつ企業を訪れたブラック・ジャックが、紹介された患者の心臓にできた血腫を治療するというものだ。手塚が存命だったときに描かれたオリジナルの『ブラック・ジャック』にも登場する、本間血腫が物語のカギになっているようである。

  本間血腫は、ブラック・ジャックを救った恩人、医師の本間丈太郎が命名した心臓の病気である。本間は患者の治療に全力を尽くしたが、救うことはできなかった。しかも、その医療行為が人体実験であると批判され、医学界から追放された。本間の無念を晴らすべく、ブラック・ジャックは独自に本間血腫の研究を行っていた。

  そしてついに、本間血腫の患者と向き合う機会がやってきた。患者を治すため、ブラック・ジャックは人工心臓を開発して、心臓を丸ごと入れ替えようと考えた。ところが、手術を開始し、衝撃を受ける。なんと、患者の心臓は既に人工心臓だったのだ。つまり、「本間血腫は人工心臓の故障による病気だった」ということがわかったのである。この話はブラック・ジャックが医学の限界を知って強いショックを受けるため、印象に残っている読者も多いのではないか。

  今回の話で、ブラック・ジャックは本間血腫と再度向き合うことになるようだ。そこはやはりAIらしいというか、過去に登場した病気の話になってしまうのか、という印象を受けた。まったくのオリジナルの病気や、作中で扱われていない病気(例えば新型コロナウイルス感染症など)を元に話を作ることは、現時点では難しいのだろうか。

  また、手塚らしい奥深いストーリーを生み出すためには、過去の全作品はもちろんだが、同年代に描かれた他の漫画家の作品(『ブラック・ジャック』には『がきデカ』など、他の漫画のキャラもチョイ役で登場するのだ)、手塚がこれまで見聞きしてきたであろう情報を学習させる必要があるだろう。ディズニー作品はいうまでもなく、『リボンの騎士』の発想のもとになった宝塚歌劇、そして幼いころの戦争や昆虫採集体験などの学習も必須であろう。

 生み出されたキャラクターの造形だが、一般的な読者であれば、特段、問題なく見れると感じた。しかし、手塚作品をよく読んでいるファンが読むと、違和感を感じるのではないか。確かに“手塚治虫っぽい”ものの、モブキャラなどは特に、手塚のキャラとは異なるなと感じてしまった。それは、作画を担当したスタッフの絵の癖のせいなのかもしれないが。

 ニュース映像を見たところ、作画担当者はタブレットを使って、線を消したり、微修正しながら絵を描いていた。サンプル画像のキャラの線に迷いがあるように感じたのは、作画担当が手塚の絵柄に似せようと苦心したせいなのだろうか。そして、タブレットでは手塚特有の線は出ないのかもしれないと思った。ここはやはりカブラペンを使って紙に描くか、もしくは手塚の微妙なタッチを再現できる画像処理ソフトを開発しないと、手塚の線に近づけることは難しいのかもしれない。

 さて、ブラック・ジャックは本間血腫に向き合う中で、医学の限界を感じていた。AIはどうだろうか。プロジェクトのメンバーも、キャラクターの心情描写はAIがまだ苦手であり、作中に流れる空気感の表現が弱い、と率直な意見を述べた。これは現時点でのAIの限界を感じる発言と捉えることもできるが、同時に、未来への希望をも感じさせるものであった。AIが手塚を超えたのか、はたまたまったく別物として純粋に楽しめるのか。そのあたりの判断は、明日発売の漫画を読んだ読者に委ねたい。

  かつて「TEZUKA2020」プロジェクトで制作された『ぱいどん』には、賛否両論、様々な意見が寄せられた。その後、AIの進化は目まぐるしいが、『TEZUKA2023 ブラック・ジャック 機械の心臓-Heartbeat MarkⅡ』は実に3年ぶりとなるプロジェクトの成果といえ、関心も高まっている。反響次第では、この先も手塚治虫のAI関連のプロジェクトが計画されそうな予感もする。まずは、明日発売の「週刊少年チャンピオン」を手に取ってみたいものだ。

 

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