手塚治虫漫画をより楽しむ“スターシステム” ブラック・ジャックがゲスト出演した印象的な作品は?
手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』は医療漫画の金字塔である。手塚の代表作であり、現在も単行本が売れ続けている日本を代表する漫画のひとつと言っていい。
手塚の漫画を読むうえで楽しみなのが“スターシステム”である。それは漫画の登場人物(キャラクター)が映画の“役者”のように様々な作品に出演するというもので、最古参ではヒゲオヤジやケン一、アセチレン・ランプ、ハム・エッグなどのキャラが有名だ。手塚は一貫してこの手法を用いており、ある作品の主役が、別の作品では悪役として登場したりしている。
『ブラック・ジャック』は1973年に「週刊少年チャンピオン」で手塚治虫の漫画家生活30周年を記念して連載が始まった。作中には『鉄腕アトム』のアトムや『リボンの騎士』のサファイアなどの数々の有名キャラクターが、患者役だったり、悪役だったり、チョイ役だったりで出演する。いわばスターシステムの集大成的な作品といえる。
そして、ブラック・ジャック本人が他の手塚漫画やアニメに出張している例がいくつもあるのだ。代表的なものを挙げてみよう。
1986年に連載開始した主人公がタクシードライバーの『ミッドナイト』は、1話完結方式でタクシーの乗客にまつわるドラマが展開される漫画だ。
なんと、作中にブラック・ジャックがブラック・ジャック役で登場する。しかも手術を行うシーンもあり、特に最終回ではその腕がいかんなく発揮される。ゲストキャラクターではなく、作中の重要な登場人物と言っていい。
1978年、手塚治虫が初めて2時間のテレビアニメーションを手掛けたのが『100万年地球の旅バンダーブック』である。「24時間テレビ 愛は地球を救う1」で放送されるアニメとして製作されたが、作中にブラック・ジャックが準主役級の役で登場する(役名はブラック・ジャックである)。主人公のバンダーの兄役という設定だ。当初は敵キャラとして登場するがのちに味方となり、最後にバンダーと共闘することになる。
『100万年地球の旅 バンダーブック』が好評だったことを受け、「24時間テレビ」のアニメシリーズは手塚治虫が亡くなるまで定番化した。この頃には手塚作品の中でも『ブラック・ジャック』が人気も知名度が高かったためか。ブラック・ジャックが登場する話が多い。次作の『海底超特急マリン・エクスプレス』や、『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』に登場。さらに、『タイムスリップ10000年 プライム・ローズ』にはブラック・ジャックのライバルの医師・ドクター・キリコが、キリコというキャラクターで登場する。
『火の鳥・望郷編』にフォックス役として出演した際は髪が黒色の珍しい姿が見られるし、チョイ役で『ドン・ドラキュラ』にも登場している(“いぼ痔”について医学的な説明が添えられたコマに描かれているだけだが)。
「週刊少年チャンピオン」1982年1+2新年合併号は、連載作の『七色いんこ』だけでなく『ブラック・ジャック』の読み切りも掲載され、手塚ファンにはたまらない号となった。表紙では七色いんことブラック・ジャックの2人が共演を果たしている。
ブラック・ジャックは圧倒的に知名度が高いため、チョイ役ではなく、主役級の役で出演することが多かったようだ。ビジュアルもキャラクターも立ちまくっているせいか、脇役で使うには難しい“役者”といえるのかもしれない。手塚は役者を使う監督かプロデューサーのように出演計画を立て、模索しながら漫画を描いたはずである。こうしたスターシステムを楽しめるようになれば、手塚漫画を読むのがますます楽しくなる。