『葬送のフリーレン』は“日常回”こそが本編? 人助けの対価として得てきた“くだらない魔法”のあたたかさ

『葬送のフリーレン』くだらない魔法の魅力

 アニメが好評放送中の異世界ファンタジー漫画『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人/作画:アベツカサ)。魔王を打倒した勇者パーティーの魔法使い·フリーレンが主役の物語だけに、魔族との激しいバトルも見どころで、直近の放送回ではしびれる戦いが展開されてきた。しかし本作の”本編”は、一般的には箸休め的に考えられる「日常回」だと言えるだろう。

 すでに1000年以上の長い時間を生きるエルフであるフリーレンは、人生の中でほんのひとときを共に過ごした勇者ヒンメルたちとの記憶をたどりながら、趣味である「魔法集め」の旅を続けている。人々の依頼を受け、決してドラマティックとは言い難い問題解決を重ねるなかで、出会う民間の魔法たちが面白い。

 「しつこい油汚れを取る魔法」や「カビを消滅させる魔法」のような生活に役立ちそうなものから、「甘い葡萄を酸っぱい葡萄に変える魔法」のような用途があまりに限られたもの、「パンケーキを上手にひっくり返す魔法」や「背中の痒い部分を掻く魔法」などの“魔法を使うことか?”と疑問符がつくものまで、その内容はさまざまだ。

 いずれも大魔法使いがわざわざ集めるに値するものには思えないが、頼みごとを解決した対価として、フリーレンはちょうどよく思っているようだ。

 困っている人を助けるとき、フリーレンは多くの場合、対価を要求する。これは「貸しを作ってしまっては、その人を本当に助けたことにならない」というヒンメルのスタンスにならったもので、フリーレンはくだらない魔法を一つ手に入れるたび、「魔法集め」という趣味の充実以上に、大切な記憶に触れて満たされているに違いない。

 もちろん、「魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)」をはじめとする戦闘用魔法はカッコよく、アニメでも若き天才魔法使い·フェルンの速射が美しく描写された。10日放送のアニメでは大魔族「断頭台のアウラ」とのバトルがクライマックスを迎え、フリーレンの実力の一端が明かされたが、強力な戦闘魔法より、ある意味で「卵を割ったときに殻が入らなくなる魔法」の方が輝いて見えるのが、『葬送のフリーレン』という作品なのだ。

 ヒンメルたちと笑い合った“くだらない旅”の愛おしさを再確認し続けるフリーレンは、今後どんな“くだらない魔法”を収集していくのか。楽しみに見守ろう。

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