ダンスプロデューサー・夏まゆみはなぜ執筆活動に力を注いだのか? 遺作に込められた「言葉の力」

夏まゆみの遺作を読む

 だが、夏しかり、ダンサーが時として唱える精神論にとどまらず、具体性のあるヴィジョンを持ち、行動していたことも見逃してはならない。それはダンスを“著作物”と認めてもらうために、振付師の“クレジット”の必要性を主張しつづけたことである。

 「作曲・作詞家のテロップはあるのに、振付師にないのはなぜ?」

 そんな素朴な疑問を持ち、歌番組にクレジットを掲載してもらうよう業界内で奔走、進言するなど、水面下での活動に労を惜しまなかった。夏の行動力は関係者であるならだれもが知るところである。

 ただし現実問題として、振り付けに著作権を与えるには無数のハードルを飛び越えなければならない。作曲のように採譜もできなければ、作詞のように活字にもできない。これら二点が障壁となり、専門の弁理士ですら手が焼ける案件とされてきた。これではテロップのあつかいにテレビ局が慎重になるのもむりはない。

 けれど、夏の努力は限定的だが実を結んだ。モー娘。二度目の紅白(1999年)で披露された「LOVEマシーン」のテロップで、クレジットを流すことに成功している。しかし、現状をみるかぎりでは、夏のそのような功績が持続しているとはいえない面もある。だが、夏のいう“言葉力”が媒介となって、踊ることも書くこともおなじ舞台で演じさせたのはまちがいない。

 “問わず語りに踊りだす”。ページをめくった瞬間、ふしぎな感覚が鼻腔をくすぐる。見えないはずの夏の呼吸がこの書をやさしく包み込んでいる。

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