『ONE PIECE』なぜ少年漫画では珍しく”悪役”が主役なのか……作者・尾田栄一郎が描く”異色”の真意

『ONE PIECE』ルフィとサンジは正反対

尾田作品に描かれる「叫び」の意味

 ところで尾田といえば、任侠作品をこよなく愛していることで知られる。とくにマキノ雅弘監督の映画『次郎長三国志』の大ファンで、同作のDVD化を権利元である東宝の社長に直談判したというエピソードまで存在するほどだ。

 そうした趣味は『ONE PIECE』にも反映されており、『仁義なき戦い』に登場する菅原文太や田中邦衛をモデルにした赤犬や黄猿の存在からも、任侠作品への熱意がよく分かるだろう。

 そして任侠作品といえば、世間一般では“悪”とされる人物に光を当てるジャンル。尾田の作品にあふれる悪の美学は、ここに源流があるのかもしれない。

 他方で、別の観点から尾田のこだわりについて考えることもできる。『ONE PIECE』の連載が始まって1年余りが経った頃、1998年10月号の「コミッカーズ」で、興味深い発言を行っていた。

 尾田は同誌に掲載されたインタビューで、叫んだほうが勝ち、圧倒された方が負けという価値観を持っていることを説明。「海賊王になるって、とんでもない悪になろうとしてるんですけれど、それを元気いっぱい叫んだらそいつの勝ちだと思ってますんで」と語っていた。

 いわば善悪を超え、「自分はこうありたい」と強く主張した人間が勝つという独自の世界観だ。善が悪を倒すという王道の少年漫画とはかけ離れているはずだが、作中にあふれだす人間の生き生きとした衝動は、「邪道でありながら王道」という境地に至っている。

 たとえアウトローだとしても、痛快で胸を打つ登場人物たちの生き様。これこそが『ONE PIECE』が多くの読者に愛される理由の1つではないだろうか。

 

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