考古学者・河江肖剰「研究者にとって執着心はすごく大事」 傑作ノンフィクション『ヒエログリフを解け』を読んで
学生にも読んで欲しい
――先生が本書を読んで一番興奮されたのはどのシーンでしょうか?
河江:シャンポリオンが「ラメセス(本書ではラムセスと表記)」という王の名前を読み解いて、ヒエログリフを理解した瞬間です。ヒエログリフが単に音を表すだけではなく、表意文字の側面もあるハイブリッドな言語であることに気づいたのは大きな発見でした。読めた瞬間、驚きのあまり気絶したというエピソードの真偽はさておき(笑)、数十年も挑み続けてようやく大きな謎が解けたのですから、その衝撃は想像に余りあるほどです。我々の時代ではすでに当たり前のように知られている法則や理論にも、辿り着くまでにはこれほど複雑で重厚なストーリーがある。ぜひ学生にも読んで欲しい作品ですね。
ーーそのほか、お好きなエピソードがございましたら教えてください。
河江:「アルキメデスはバスタブで、トマス・ヤングはカントリーハウスで」という章です。解けない謎を解くためには、まず前提として、ずっとそのことについて考え続ける必要があります。そのうえで、リラックスした状態とか、なにか思いがけないきっかけが原因で、謎が解けたりします。ヤングはカントリーハウスで、中国語についての記事を読んだときに、ロゼッタストーンに書かれた王名が解けたのが面白かったです。
――河江先生ご自身の研究では今後、どのような成果を目指していますか。
河江:私たちはこれまで7つ以上の主要なピラミッドのデータを取り、その内部構造を調べてきました。今後は3年ほどかけて、そのデータを解析していきたいです。ピラミッドをどのように作ったのかについては、今のところ定説がありません。我々は実証的なデータを積み重ねることで、それを構築していきたいと考えています。2016年に宇宙からの素粒子を使ってピラミッド内部を透視するという研究を同僚がしたところ、内部に30メートル四方の巨大な空間があることがわかりました。この空洞は、もともと青写真があって計画的に作られたのか、あるいはピラミッドを作る過程で何かしらの要因があって作られたのかが論点となるのですが、私自身は失敗と試行錯誤の末に生み出されたものだと考えています。この空間の謎を解き明かすことができれば、また一歩、ピラミッドについて深く知ることができるでしょう。ピラミッド建造の謎をヒエログリフの解読と同じように少しずつ成果を重ね、執念を持ち続けて解きたいと思います。
■書籍情報
『ヒエログリフを解け ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース』
エドワード・ドルニック 著
杉田七重 訳
出版社:東京創元社
発売日:1月27日
価格:2,970円