AI絵師はなぜ「個性的」な絵を追求しない? 「無個性化」が進む理由を考察する

AIイラストは無個性化が進む?

AIイラストは無個性化が進んでいる?

 個人的な感想を言わせてもらえば、昨今のAIイラストは面白くないし、つまらない。絵柄が似通いすぎて退屈であり、何枚も見ていると飽きてしまう。Twitterで“AIイラスト”と検索し、上位に表示された絵を見てみると、小綺麗で、似通った絵柄の絵ばかりが並んでいる。女の子の目の描き方などはそっくりだ。そこには“AI絵師”なる人物の個性はない。

 AIイラストが流行り始めた初期の頃は、奇妙な箸の持ち方で意味不明なポーズでラーメンをすする女の子の絵とか、想像もつかないような絵があって結構楽しめた。人間の発想の斜め上を行く作品は実に愉快であった。

 しかし、昨今のAI絵師の仕事といえば、平均点の高い絵をいかに出力するかという一点に注力している。それはいわゆる学校の先生に褒められる類の、綺麗で、無難で、当たり障りのない万人受けしそうな絵柄が多い。オリジナリティが完全に喪失してしまっているものが散見される。だからこそ、既存のイラストレーターから「AI絵師は盗作をやっている」と批判が出るのではないだろうか。

 ではなぜ、AI絵師は個性的な絵柄を追求しないのだろう。それは、SNS上では個性的な絵よりも、無難で平均値の高い絵の方が“いいね”が付くことが大きい。要は多くのAI絵師の目的は、“いいね”をもらい、自身の承認欲求を満たすことにあるのだ。流行りのAIイラストに、ギャグ漫画で見られるようないわゆるヘタウマな絵柄がほとんどないことからもよくわかる。

平均的な絵柄の方が“いいね”がつく

 話が若干逸れるが、Instagramで“模写イラスト”というハッシュタグで検索すると、『推しの子』や『チェンソーマン』などの流行りの作品のキャラクターを忠実に描いた、模写とは名ばかりの事実上トレースのような絵が多数UPされている。これはAIではなく人間が描いているのだが、発表者は自身の個性を殺してお手本にいかに忠実に描くかを競い、最終的には“いいね”が付くことに喜びを見出している傾向がある。これは中学校の美術の授業などで、「お手本を見て描きましょう」と言われてリアルに描き、花丸を貰って喜ぶ生徒の感覚に近い。

 そうした絵描きのインスタ投稿をさかのぼると興味深い。投稿を始めた当初は独特の絵柄だったりするのだ。記者から見ればかなり魅力的である。しかし、“いいね”はというと、数件付いている程度である。ところがある日を境に模写イラストを載せたところ、“いいね”が急増。以後、模写イラストの投稿に邁進するようになっている。典型的な“いいね”中毒である。本人が楽しいならそれでいいものの、果たしてそれが絵を描く喜びといえるのかどうか、はなはだ疑問であるが。

 とはいえ、人々は模写のようにお手本通りに描かれた絵や、美術の授業で先生が褒めてくれる忠実に描かれた絵、そしてAIが出力するような平均点の高い絵などを「上手い」と感じる傾向があるのは事実だ。“いいね”を手っ取り早く集めたいなら、個性的な絵よりもこうした絵をリリースした方がいいだろう。

 しかし、そうした絵が受けるのはSNS上だけ、さらに言えば“無料”で絵が見れる世界に限定されていると考えた方がいい。AIイラストは「絵が上手いね」と褒められる類のものだが、金を払ってまで見たいものではないからだ。今でこそ物珍しさで評価する人はいると思うが、長期的な視点で見ると、個性に乏しいAI絵師が安定的に収益を得るのは難しいと思われる。

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