『海の闇、月の影』『陵子の心霊事件簿』……アラフォー世代のトラウマ、篠原千絵のホラー漫画を再読

篠原千絵のホラー漫画を再読

 ここ最近、子どもの頃に集めていた漫画をKindleで買い直している。先日、篠原千絵氏(以下敬称略)の『海の闇、月の影』と『陵子の心霊事件簿』をコレクションに加えた。同氏は歴史をテーマにした作品が人気だが、80、90年代はホラー漫画家の印象が強かったと思う。筆者が同作を愛読していたのは、まだ小学生だったと思うが、『海の闇、月の影』はページを開くのを躊躇するほどだった。

 だが、この年になって改めて読んでみると、全体的なキャラクターの幼さや、子どもをターゲットにした絶妙な塩梅のホラー展開に気づけて別の面白さを感じている。

 というわけで、今日は篠原千絵のホラー漫画の魅力を大人目線で紐解いていこう。

純粋な悪魔が魅力的な悪役に

 筆者が愛してやまない2作は、同時期に別の雑誌で連載されていた。『海の闇、月の影』は中学生を対象とした「少女コミック」、『陵子の心霊事件簿』は小学生を対象とした「ちゃお」だ。

 この中で魅力的な悪役といえば、なんといっても『海闇』の流水(るみ)だろう。彼女と一卵性双生児の流風(るか)のふたりは、古代のウイルスで不思議な力を手に入れてしまう。流水と流風はどちらも当麻克之(とうまかつゆき)に片思いしていたのだが、事故の前日に当麻が流風に告白しているのを目撃し、失恋してしまう。この失恋がマイナスに作用し、流水は能力をネガティブに作用させ、流風は正の象徴のようになっていく。

 幼い頃は、流水が怖かった。優しい流風を追い詰め、本能のままに殺戮を繰り返し、なんとしてでも当麻を奪おうとするからだ。筆者の周りでも、流水を恐れる人は少なくなかった。流水が怖すぎて『海闇』を読めなかった人もいたくらいだ。

 だが、歳を重ねる中で決して実らない残酷な恋があると知ると、流風と当麻がどれほど流水に対して酷い仕打ちをしていたのかがわかるし、流水がどれほど孤独で悲しい運命にあったのかが痛いほどわかる。今なら流水を抱きしめてやりたいとすら思う。

 大人になると物事の見え方が変わるとは言うが、『海闇』はその典型的な例のひとつだと思われる。

適度な怖さがいい塩梅だった『陵子の心霊事件簿』

 『海闇』は悪役の魅力を再確認させてくれたが、『陵子の心霊事件簿』は怖さのバランスが絶妙だったことに気付かされた。

 溺死したネコの体を借りて自分の体探しをする生き霊と、霊能力を持つ陵子の冒険を描いた本作は、ちゃおで連載されていたとあって、物語の展開は基本的にシンプル。読者がハラハラさせられる展開があったとしても解決策が明瞭なため安心して読めるようになっている(篠原本人は連載されていた雑誌のターゲット年齢を意識していなかったとインタビューで語っているが)。

 その一方で、霊とのバトルにはなかなか決着がつかない。これは悪い意味ではなく、引っ張り方が上手いのだ。特に、霊に勝ったと安堵したタイミングでの裏切りの展開は、自分にとってあまり馴染みのないストーリーだったこともあり強く心に残った。改めて読んでも、最後の捻りは素晴らしいと思う。

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