ベルセルクやファイアパンチの影響も 江戸時代バトロワ漫画『地獄楽』の凄さを解説

期待高まる『地獄楽』の凄さ

 一方、より直接的な影響関係を感じるのが、賀来ゆうじがアシスタントとして参加していた漫画『ファイアパンチ』(集英社、全8巻)である。2016~18年にかけて連載された本作は『チェンソーマン』(同)の藤本タツキの出世作で、賀来の他にも『ダンダダン』(同)の龍幸伸や『SPY×FAMILY』(同)の遠藤達哉もアシスタントとして参加していたジャンプ+を象徴する作品だ。

 本作は極寒の大地と化した世界で、全身が炎で覆われた状態で死ぬこともできずに復讐のために生きる男・アグニの遍歴を描いたダークファンタジーだ。人肉食の場面から始まる第1話以降、容赦なく手足が切断される残酷描写と救いのない物語が延々と続く本作は、少年漫画の枠組みを大きく逸脱した問題作だった。

 現在の「ジャンプ+」が醸し出す「何でもあり」の空気は、本作が決定づけたと言って、間違いない。この「何でもあり」の精神こそ、賀来が『地獄楽』に持ち込んだ一番の要素だ。しかし、一見同じような救いのない物語に見えるが『ファイアパンチ』と『地獄楽』は、全く異なる場所へと着地した。

 この違いは藤本タツキと賀来ゆうじの作家性の違いとも言える。人間や社会に対する根強い不信感が藤本タツキのぶっ壊れた魅力となっているのに対し、どれだけ救いのない物語に見えても、人間に対する強い信頼が賀来の漫画にはある。

 それが最も強く現れているのが主人公の画眉丸だろう。地も涙もない「がらんどう」と言われる画眉丸の心の奥底には、妻の結衣にもう一度会いたいという一途な思いがあり、だからこそ山田浅ェ門の佐切も、画眉丸に救いの手を差し出したのだ。

 『地獄楽』の根底には、人間に対する強い信頼があり、だからこそ本作は読後感の良い娯楽活劇となっている。このバランス感覚は本作を支える重要な要素だ。

 また、『地獄楽』は個性的なキャラクターが次々と戦う異能バトル漫画だが、バトルと同じくらい引き込まれるのが、植物の特性を備えた怪物たちの不気味なビジュアルだ。序盤の戦いでは刀によって肉体が切断される描写が強調されるが、後半になるに従い、切断の痛みとは真逆の、体内に異物が侵入することで自他の境界が曖昧になっていく恐ろしさが描かれるようになっていく。

 劇中には身体が花だらけになる場面が繰り返し登場するのだが、その描写は恐ろしいと同時にとても魅惑的なものとなっている。この怪物たちの姿を追いかけていると自分が島の中を探索しているような気持ちになるのが本作最大の魅力である。

 今回のアニメ化によって豊かな色彩と艶めかしい動きが加わり、島と怪物の禍々しさがより生々しいものとなって迫ってくることは間違いないだろう。新しい地獄が楽しみである。

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