ドラマ化発表の『トリリオンゲーム』は何がすごい? 漫画界の強力タッグが生んだ“ハラハラしない成り上がり”の魅力

ハラハラしない『トリリオンゲーム』の魅力

 人気漫画『トリリオンゲーム』の最新第6巻が3月30日、発売された。実写ドラマ化されることが発表されており、さらに注目が集まりそうだ。

 「ビッグコミックスペリオール」(小学館)で連載中の本作は、事業内容も決めずに起業したふたりの青年が、ゼロから1兆(トリリオン)ドル稼ぐことを目指すスタートアップ・コミックだ。人間力が異常に高い“世界一のワガママ男”ハル(天王寺陽)と、対人スキルは皆無だが一流のプログラミング能力を持ったガク(平学)のコンビによるサクセスストーリーで、人気原作者・稲垣理一郎とレジェンド漫画家・池上遼一のタッグが、漫画の中でそのまま躍動しているような感覚がある。

 稲垣氏は、『アイシールド21』や『Dr.STONE』という人気少年漫画を手掛けてきた超実力派。本作では、世界中のハッカーがそのスキルを競う「セキュリティ・チャンピオンシップ」からAIショップ、ソーシャルゲームと、ITを軸にしたモチーフが登場するが、大いにハッタリを利かせながら不思議な説得力があるのは、稲垣氏が学生時代からゲームプログラミングに熱中してきた“成果”と言えるだろう。テクノロジーを噛み砕き、キャッチーな題材に落とし込む手腕は『Dr.STONE』でいかんなく発揮されていたが、ビジネス漫画にも見事に応用されている。

 その“ハッタリ”を漫画力でエキサイティングに仕上げているのが、池上遼一だ。特徴的な作画から、史村翔(武論尊)とタッグを組んだ人気作『サンクチュアリ』のような熱いバディモノの雰囲気を感じさせつつ、「そんなアホな!」というツッコミを許容するようなギャグ描写も含め、読者に野暮なことを言わせずに巻き込んでいく痛快さ。2021年に連載を開始した比較的新しい作品なのに、すでに30巻くらい出ているのでは……と思わせる安定感も、レジェンドのなせるわざだ。

 この手の作品として新鮮なのは、先の展開は楽しみになっても「ハラハラしない」ところだ。すでに億万長者になった視点から過去を振り返るという構成で描かれていることもそうだが、得体の知れないパワーを持ったハルと、そのハルが見込んだ気弱な天才・ガクが結局は何とかしてくれるだろうという圧倒的な信頼感があり、安心してページをめくることができる。いい意味で頭を使わず、ライトな感覚で読めるのに、わりと真っ当なビジネスアイデアも散りばめられているのが面白く、一方でフィクションならではの“何でもあり感”も魅力的だ。

 ぶっ飛んでいて、しかし安心して楽しめる本作。ドラマが始まる前に原作をチェックしてみてはいかがだろう。

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