人気料理家・白崎裕子、革新的レシピ本『へとへとパン』誕生の背景 「誰が作っても失敗しないパン作りをずっと考えていた」

人気料理家・白崎裕子インタビュー

 神奈川県葉山町の海辺にある古民家で、予約の取れない料理教室として知られる「白崎茶会」。その主宰である料理研究家・白崎裕子は、小麦粉を使わないお菓子レシピ本「白崎茶会のあたらしいおやつ」「へたおやつ」で2017年・2018年「料理レシピ本大賞【お菓子部門】大賞」を連続受賞。食物アレルギーを持つ人や料理初心者でも簡単に作れるレシピを伝え続けてきた。

 そんな彼女が、今回新たに出版したのは小麦粉を使わないパンのレシピ本「へとへとパン」(マガジンハウス)だ。発酵いらずだから、作業はなんと5〜15分ほど。へとへとに疲れている時でもパンが焼ける、と話題が広がっている。白崎裕子の経歴を辿るとともに、この本ができた経緯、そしてどんなレシピが掲載されているのか、その中身に迫りたい。

レシピを必要としている人=料理上手とはかぎらない

――「白崎茶会」では、ヴィーガンという言葉が知られる前から小麦粉や卵、乳製品を使わ

『へとへとパン』の著者である白崎裕子さん

ないお菓子や料理を提案されていました。白崎さんが主宰される料理教室にどんな方がいらっしゃるのですか?

白崎:教室に来る方は、さまざまな理由をお持ちです。卵や乳製品などのアレルギーがある方はもちろん、家族がご病気だったり、何か症状があって自然食を始められているなど、もともと料理が好きな人ばかりではありません。今の時代であれば、一般の方でもヘルシー志向からヴィーガンのお菓子を選ぶ人も増えましたが、始めた当時はそんな時代ではありませんでした。卵が使えないということは「ふわふわのお菓子が食べられない……」と思っていた人たちが、うちの教室に来ればそれが作れるようになるらしいと。でも料理をあまりしたことがない人たちに「乳化するまで混ぜてください」とか「状態をみて水分量を調節してください」なんていってもよく分からないですよね。失敗してしまう人も多かったので、レシピがどんどん簡単になっていったんです。

誰が作っても失敗しないパン作りを考えていた

――「へとへとパン」もその中から誕生したレシピがたくさん詰まっているのですね。レシピ工程を見ていると、パン作りをしたことがなくてもこれなら作ってみたい! と思わせるレシピが満載です。

白崎:教室を15年ほど続けてきて、生徒さんたちが一番失敗しやすいのが「パン」だと感じていました。小麦粉を使う一般的なパンはその日の気温や湿度で発酵状態が変化しますので、レシピ通りに行っても、さまざま理由で発酵が足りなかったり、進みすぎてしまうことも。ちょっと混ぜて焼くだけで、誰もが失敗せずに作れるパンレシピをずっと考え続けてきました。そして今の時代は共働き夫婦も多くて、皆さん忙しくて疲れている。毎朝きちんとした食事を作ることすらなかなか難しいですよね。最初はできても、簡単でないと続かないんです。そこで小麦粉を使わないパンレシピなら、手間や時間を最小限にできるのではないかと言う思いに至りました。

――本をパラパラめくると、ボウルでぐるぐる混ぜてオーブンで焼くだけというような、忙しい朝でもパパっとできるレシピが多いです。成型不要で「これってパンなの!?」と驚くものもありました!

白崎:パンの歴史を辿ると、一番最初はオーツ麦のおかゆを焼いたものという説があるんですよ。おかゆを暖炉の横にずっと置いているとちょっと酸っぱい匂いがしてきて、もったいないから広げて焼いてみたら美味しいじゃないかと。インドのチャパティとか、アイルランドのソーダブレッドとか、粉と水を練ってすぐに焼くクイックブレッドは世界にたくさんあります。

 この本で紹介しているレシピでは、まず器で混ぜるだけのボウルパンを作ってほしいです。オーブンに入れるまで、5分くらいでできてしまう手軽なものです。材料は小麦粉の代わりにオートミールやおからパウダー、大豆粉やきなこ、米粉を使います。どれも今では多くのスーパーで買えるようになりましたよね。

――栄養面も考えられていると解説に書かれていました。

白崎:糖質オフ・グルテンフリーのブームから小麦粉のグルテンは敬遠されがちですが、実はタンパク質なんです。なので米粉をメインにしたパンだとグルテンがない一方、タンパク質が少なくなります。そこで、米粉に豆乳や豆乳ヨーグルトを合わせることでタンパク質を補えるようにしています。ほかに、豆腐や野菜を生地に練り込んだり、食物繊維豊富なオートミールも腹持ちよく優秀な食材です。

へとへとにも種類がある。自分の状態に合わせたパン作りを

――「へとへとパン」というタイトルは「へとへとでも作れるパン」という意味が込められているそうですが、へとへと度合から逆引きして何を作ればいいかおすすめしてくれる索引が掲載されているのも、この本の優しいところだと感じました。

白崎:ありとあらゆるへとへとな人を想像してみたら、へとへとにもいろんな種類があると思ったんです。たとえば、人生に疲れているへとへとは、時間があってもあまりやる気が起きないへとへとです。反対に、元気はあるけれど忙しすぎてとにかく時間がないっていうへとへともあります。毎日食べるパンだからこそ、そんな自分に寄り添えるといいなと考えました。

――どのような思いでレシピを考えていたのですか?

白崎:どうやったらこの試作と同じようにみんなが作れて、食べて喜んでもらえるのか。それだけを考えていました。そもそもの始まりはアレルギーの子を持つお母さんたちがとても苦労しているから、少しでも楽になってほしかったんです。使う食材が限られている中でも、簡単に美味しいものを作ってほしい。忙しい中、私の本を買ってくださって、希望を持って作ってくれたのに、それが上手くいかなかったら本当に悲しいと思うんです。だから、そんな方たちががっかりしないで、喜んでくれるにはどうしたらいいんだろうという思いでしたね。

――ナチュラル系の人、アレルギーを持っている人、ダイエット中の人など色んな方向への優しさが詰まったレシピ本でした。最後に今まで白崎さんが読んできて、自身の料理の参考にしてきた本などがあれば教えてください。

白崎:料理書は昔から同じ本を繰り返し読むタイプですが、最近はまっているのは「別冊うたかま 伝え継ぐ日本の家庭料理」シリーズ(農山漁村文化協会)です。これは本当に面白くて、気づいたら全巻持ってました。その地域などで時代とともに受け継がれてきたレシピです。読んでいると昔の人たちの知恵を分けてもらえ、新しいレシピのアイデアが湧いてきますね。

―ありがとうございました!

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