『こち亀』両津勘吉、漫画嫌いの大原部長におすすめした魅力的すぎる作品は?
現代では、大人が漫画を読むのはごく当たり前の光景だ。「サライ」や「GOETHE」など大人向けのカルチャー誌でも漫画特集が組まれるほどだし、芸能人から学者まで、漫画を愛読していると語る著名人は多い。つくづく、時代は変わったものだと感じる。というのも、一昔前には、大人が漫画を読んでいるだけで白い目で見られることもあったからだ。
秋本治の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(以下、『こち亀』)の第89巻(1994年初版)に収録された「活字V.S漫画論争!の巻」にも、漫画好きの両津勘吉(両さん)と漫画否定派の大原大次郎(部長)の壮絶なバトルが描かれている。派出所に漫画を持ち込んでいる両さんを部長が怒鳴りつけ、「邪魔だから早く捨てろ」と一喝する。そして部長は「漫画なんてくだらん物を見る暇があったら本のひとつでも読め!」と、漫画を全否定した。
両さんも「漫画の方が本より100倍面白い」と説得するが、部長は「漫画は子供が見るものだろうが!」と決めつけて、聞く耳を持たない。そこに、中川圭一のケンブリッジ大学時代の恩師、絵崎コロ助教授が現れる。部長は「こいつは今でも漫画読んでるんですよ」と絵崎教授に言う。ところが、絵崎教授からは「私も漫画を愛読しておる」という予想外の一言。これには部長も仰天する。
絵崎教授は『タンクタンクロー』『0マン』『海の王子』『忍者武芸帳』『鉄腕アトム』『夏子の酒』まで手広く漫画を愛読していることを話し、こう続ける。
「日本の漫画の様に幅広いジャンルを描いているのは世界で日本だけだ」
「漫画やアニメは新しいメディアとして世界中に躍進して行きます!」
「これからの時代 古い価値観に縛られず多角的に物事を見つめねばいかん!」
「面白い作品はジャンルに関係なく面白い! つまらん物はつまらんのだ!」
あまりに正論すぎて、さすがの部長も圧倒されてしまう。かくして権威に弱い部長は苦手意識が高かった漫画を読むことになった。そして、部長の漫画嫌いを克服すべく、両さんがここぞとばかりに選んだ“推薦図書”が実に魅力的なのだ。両さんおすすめの漫画のタイトルを紹介しておこう。
■導入『のらくろ』
■初級『サイコロコロ助』『イガグリくん』
■中級『サスケ』『伊賀の影丸』
■上級『おそ松くん』『天才バカボン』
■卒業『火の鳥』
ちなみに、絵崎教授は『ブラック・ジャック』や『三国志』も推奨している。新旧の名作が網羅されているが、お堅い部長が苦手なギャグ漫画をしっかりと入れるあたり、さすがは両さんである。ギャグ漫画の後に『火の鳥』とはなかなかハードな気がするが、真面目な部長はしっかりと読破したのだ。
かくして部長が漫画に理解を示してめでたしめでたし……とならないのが、『こち亀』である。今度は部長が、両さんに活字の本を薦めるのである。そのラインナップは以下の通りだ。
■導入『桃太郎』『かちかち山』
■初級『罪と罰』『戦争と平和』
■上級『人間失格』『斜陽』
■卒業『聖書』
絵崎教授も「うむ 両津くんの頭もメディアミックスした方がいい」と一言。それにしても、漫画よりかなりハードなチョイスな気がするのは、気のせいだろうか。両さんと部長の推薦図書、気になった人はぜひ一度読んでみてほしい。