『2022年日本語ラップの旅』『シスタ・ラップ・バイブル』『日本語ラップ名盤100』……2022年のヒップホップ/ラップ本 3選

二木信が選ぶ、2022年のヒップホップ本

韻踏み夫『日本語ラップ名盤100』(イースト・プレス)

 良いディスクガイド本、音楽本は読んで聴きたくなる。当たり前のことを書いているが、やはり重要だ。これまでと異なる新鮮な聴き方のヒントをくれる解釈は、新たな世界への扉を開く鍵だからだ。前述したR-指定の解説によって、ほとんど触れてこなかったケツメイシを無性に聴きたくなった。クローヴァー・ホープの膨大かつ正確な知識によって、わかったつもりになっていた女性ラッパーやその楽曲への理解がより深まったし、スルーしていた重要曲をかたっぱしから聴いている。そして、1994年生まれのライター/批評家、韻踏み夫が昨年出版した初の単著は、聞き馴染んだ日本語ラップの作品に改めて向き合う機会を与えてくれた。著者は100枚(関連盤を含め300枚)の選盤にあたって心がけたことを「はじめに」で次のように書いている。「多くの人の意見を参考にし、誰もが納得できるような、オーソドックスで一般的な選定基準」。つまり、日本語ラップ史を前提とした入門書を目指すと同時に、“日本語ラップ批評”史も意識したことで入門書に留まらないのが本書の醍醐味だ。

 著者は明快な評価と文芸批評で鍛えた鋭い筆致によって、日本語ラップが社会に大きく開かれた音楽であり、またいかに生き方に直結した芸術であるかを鮮やかに伝えるのだ。例えば、ANARCHYの『ROB THE WORLD』(2006年)を「ゲットーの発見」、その翌年に『SPROUT』を発表したSHINGO★西成を「ワーキング・クラス・ヒーロー」と評価する。さらに、ここに“川崎サウスサイド”から登場したBAD HOPの『BAD HOP WORLD』(2020年/P214)を加えてもいいだろう。そうして、日本語ラップが日本社会におけるマージナルな地域や存在に光を当ててきた史実を描く。一方で、LIBRO『胎動』(1997年)とSHING02『緑黄色人種』(1998年)を「内面の発見」という視点で捉え返すのも興味深い。ここからさらに踏み込んで、鎮座DOPENESSと“だめ連”(R.I.P.ペペ長谷川)に非マッチョ性や緩さという共通点を見いだしたり、フーコーやドゥルーズを引用しながら小林勝行の狂気に宿る真の作家性を指摘するあたりも読みどころだ。これから日本語ラップを聴こうと考えている人にも、迷わずに本書をすすめたい。

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