浦沢直樹『PLUTO』アニメ化決定 手塚治虫リメイク作品の中で最大のヒットとなった要因は?
手塚治虫の『鉄腕アトム』に描かれた「地上最大のロボット」をリメイク
日本を代表する漫画家・浦沢直樹の漫画『PLUTO』がNetflixでアニメーションシリーズ化され、2023年に独占配信されることが決定した。本作は手塚治虫の代表作『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」のエピソードを元に浦沢が漫画化したもので、現在は世界18の国と地域で翻訳出版され、全世界の単行本累計発行部数が約1000万部を突破するヒット作。
手塚治虫の漫画を他の漫画家がリメイク・再構築したり、スピンオフ作品を描いた例は数多い。これまでに『リボンの騎士』や『ブラック・ジャック』は言うに及ばず、最近では『アトムキャット』など知られざるマニアックな作品(『アトムキャット』は手塚治虫が『鉄腕アトム』をリメイクしたもので、いわばリメイク作品のリメイクになる)の絵本化なども実現してきた。
こうした数あるリメイク作品の中でも、浦沢が手掛けた『PLUTO』は最大のヒット作と言っていい。浦沢の卓越した画力はもちろんだが、手塚が込めたメッセージ性を浦沢が再構築した物語も高く評価されている。これまでに、国内外で数多くの賞を受け、第9回手塚治虫文化賞マンガ大賞を筆頭に、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第41回星雲賞コミック部門受賞などを受賞している。
手塚は高度経済成長期まっただ中で執筆された『鉄腕アトム』で、人間対ロボット、ロボット対ロボットの複雑な対立構造や、科学文明の進化に警鐘を鳴らす物語を数多く描いた。特に「地上最大のロボット」は手塚がもっとも脂がのった時期に描かれたこともあり、傑作として知られる。当時の子どもたちはロボット同士の対決に熱狂しつつ、その最後には涙したという。浦沢は原作の設定を生かしつつ、類稀な画力と構成力で、異色のサスペンスドラマとして描き上げている。
世界で手塚治虫の評価はまだ充分に与えらえていない
浦沢は熱心な手塚ファンとして知られる。自身が製作にも関わるNHK・Eテレのドキュメンタリー番組「浦沢直樹の漫勉neo」の2月4日放送分で、手塚治虫を特集。そのリスペクトに溢れる姿勢が大きな反響を呼んだ。そして、初めて漫画で感動したと語るのが、何を隠そう『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」なのだ。『PLUTO』の制作も浦沢自身が手塚の息子・手塚眞に直接交渉して実現したものであった。
浦沢は今回のアニメ化に際してコメントを発表。「地上最大のロボット」をリアルタイムで読んだときのことに触れ、「60年前の発表以来、その言いようのない切なさに私の心が揺さぶられた」と語り、同作が「多くの人の『心の漫画』となった」とコメント。「この作品のリメイクがいかに難事業かを身をもって知る私は、今回のアニメ化に挑むスタッフの皆さんの勇気に心から拍手を送るとともに、新たな『心の作品』の誕生に心躍っています」「今こそ手塚治虫さんのメッセージが世界中に届きますように」と期待を寄せた。
今回注目されるのが、Netflixでアニメーションシリーズ化され、全世界に向けて配信される点だ。浦沢はもちろんだが、手塚の知名度が高まることも期待される。手塚は近年海外のオークションで原画が高額で落札されるなど、その名が浸透しつつあるが、その圧倒的な業績に対して充分な評価が与えられているとは言い難いだろう。まだまだ過小評価されている状況にある手塚の名が、世界中に広まる効果も期待できそうだ。