主婦と生活社「PASH!文庫」でラノベ界に新風なるか? 老舗出版社の底力と『くまクマ熊ベアー』文庫化への期待

主婦と生活社、ラノベ界に新風なるか

 『週刊女性』や『JUNON』などの雑誌で知られる主婦と生活社が、2月4日より77年の歴史において初となる文芸文庫レーベル「PASH!文庫」を創刊することを発表した。第一弾作品は、2015年に創刊した「PASH!ブックス」の初期作品で、ラノベ分野に四六判の書籍で参入した『くまクマ熊ベアー』の1~3巻。同作は単行本、コミックスなどで計280万部となるヒット作だ。

 文庫化によって、さらに本格的にラノベ分野で存在感を増していきそうな主婦と生活社。ライトノベルに詳しい書評家のタニグチリウイチ氏に、同レーベルへの期待を聞いた。

「『PASH!文庫』が創刊されると伺って、まず思ったのは主婦と生活社にとって『PASH!』というブランドが大きなものになってきたということです。『PASH!』は主婦と生活社が2007年に創刊したアニメ誌で、『月刊アニメージュ』や『月刊ニュータイプ』『アニメディア』といった先行するアニメ誌よりもずいぶんと新しいですが、ターゲットが女性向けのアニメを中心に取り上げているところに特徴があります。男性のアニメファンが好む”萌え”や”メカ”とは違った、女性が好むイケメンのアニメキャラクターを大きく取り上げることで、女性のアニメファンにおいてアイドル誌やグラビア誌のような支持を得ていきました。

 『PASH!』が存在感を得たことで、主婦と生活社においてポップカルチャーというカテゴリーを象徴するブランドになっていったようです。ポップカルチャー全般を扱うウエブサイトの『PASH UP!』が立ち上がったこともその表れですし、『PASH! BOOKS』という主婦と生活社において初となる文芸レーベルが立ち上がったのも、ポップカルチャーへの窓をさらに広げて、女性のアニメファン以外も獲得していこうとする動きだったように見えます」

 「PASH !BOOKS」より刊行された『くまクマ熊ベアー』がヒット作となったことが、競争の厳しい文庫への参入を後押ししたと、タニグチ氏は見ている。

 「『くまクマ熊ベアー』の大ヒットが『PASH !BOOKS』というレーベルを引っ張り、小説投稿サイトで人気の作品をどんどん書籍化していく流れになりました。これはかつて『ゲーム批評』などの雑誌を刊行していたマイクロマガジン社が『転生したらスライムだった件』の大ヒットを受けて、「GCノベルズ」というレーベルを強くしていった動きとも重なって見えます。マイクロマガジン社はその後、2021年10月に「GCN文庫」を立ち上げて、文庫市場に打って出ました。ソフトカバーの単行本サイズで刊行されるノベルズと違ってライトノベルの文庫は、それこそスニーカー文庫がありファンタジア文庫があり電撃文庫がありGA文庫がありと、とても競争が激しい分野です。

 ただ、小説投稿サイトでの人気作を書籍化したものからは前述の『転スラ』をはじめ、『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います』や『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』と言った大ヒット作が出ているため、その波に乗った作品を文庫化していくのなら、読者の支持を得られるといった狙いがあるのかもしれません。文庫化によって価格は下がるでしょうから、読者にとってはありがたい動きでもあります」

 「PASH!文庫」から、ラノベ界における新たな潮流が生まれるのかどうかも、注目のポイントだという。

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