ヘンリー英王子の暴露本が世界中で大波紋 米ワシントン・ポストなど海外紙の反響は?
イギリスのチャールズ国王の次男・ヘンリー王子の回顧録『スペア(Spare)』が1月10日に刊行され、その衝撃的な内容に全世界で賛否の渦が巻き起こっている。
赤裸々に記されているのは、イギリス王室内の確執、兄・ウィリアム皇太子からの暴行疑惑、パブの裏での年上女性との初体験、コカイン経験談、アフガニスタンで軍人として25人を殺害した事実など。
そんなショッキングな事柄が満載の本書を、海外メディアはどのようにレビューしたのだろう。主要紙の書評をいくつか見てみたい。
米ワシントン・ポストのルイス・ベイヤードは、イギリス王室の人々をパンダとなぞらえた言葉を紹介しながら、ヘンリー王子はその檻の中から脱出しようとしているとし、わりあいニュートラルな立場から淡々と暴露内容を紹介する。そして王子がまさにそうであるように、本書は「気さくであり、恨みに満ち、ユーモアがあり、独りよがりで自虐的、そして冗長である」と賛否両面から評価する。
英フィナンシャル・タイムスに掲載されたヘンリー・マンスの書評は、全体としてはおおむねヘンリー王子に好意的とも言える。赤裸々な性的体験などの「暴露は度が過ぎている」とはしながらも、王室やマスコミの力によって厳しい環境におかれた王子に同情するようなスタンスを見せている。これまでで内情を最もあらわにしている本書は、ゴーストライターのJ・R・モーリンガーによる執筆によって「ヘンリー王子の物語が繊細に、時に感動的に描かれている」とも評する。(日本経済新聞電子版掲載の翻訳記事より)
他方で英ガーディアンのレイチェル・クックは、彼の被った苦難の数々や妻メーガンへの忠実な愛はあるにせよ、王室というその特権性に盲目的であり、かなり風変わりな本であると手厳しい。差別的観点からも、軽度の障害のある女性を侮蔑した場面や、パキスタン人を意味する「Paki」という侮蔑語の使用などを批判的に見る。
米ニューヨークタイムスでは、スタインベックやフォークナーなどの文学的言及にも注目しながら、本質的には王子はパラドックスに陥ってしまっていることを指摘する。つまり、母ダイアナ妃の死から自身の恋愛報道まで、心底嫌気が差しているタブロイド報道を糾弾しているものの、本書やネットフリックス番組などによって、さらに全世界からの注目を集め、有名になってしまうという点だ。
本書で取り扱われたテーマは、イギリス王室のあり方とマスコミの暴走をはじめとし、セックスやドラッグ体験談、人種差別に性差別、戦争などあまりにも多岐にわたっていて、現代世界の論点が凝縮されている。そのどれに着目するかによっても、賛否は分かれそうだ。もし邦訳版が刊行することとなったら、日本の皇室報道と比較しながら読んでみても、興味深いかもしれない。