1月12日は『ONE PIECE』Dr.ヒルルクの誕生日! 誰よりも名医なヤブ医者の“説得力”を考察

『ONE PIECE』ヒルルクの説得力

 本日1月12日は、国民的コミック『ONE PIECE』に登場するDr.ヒルルクの誕生日だ。同作では多くのキャラクターの誕生日が語呂合わせや関連性の高い記念日などから設定されており、ヒルルクについては「ヒルルクの桜」という名エピソードと重なる「桜島の日」が関係していると思われる。

 ファンにはお馴染みのことだがあらためて解説しておくと、ヒルルクは麦わら海賊団の船医、トニートニー・チョッパーの恩人だ。“医療大国”と呼ばれながら、暴君ワポルによる「医者狩り」で医療が独占されているドラム王国で、自身が不治の病に体を蝕まれながら、無償で治療を行ってきた。元大泥棒であり、お世辞にも腕がいいとはいえないヤブ医者だが、心意気は誰よりも名医だ。

 『ONE PIECE』という作品は、キャラクターの過去を掘り下げるエピソードに秀逸なものが多いが、なかでもヒルルクは登場した話数の少なさと比較して、ファンに鮮烈な印象を残している。ヒルルクは強烈なキャラクターであるとともに、記憶に残る言葉が多いのだ。

 例えば、病人がいるというデマでワポルの城に誘き出されたとき、間違いなく殺されるだろうという場面で飛び出した、「よかった…病人はいねェのか…」の一言。古くは、アルゼンチン生まれのプロゴルファー、ロベルト・デ・ビセンゾをめぐる逸話に、こんなものがある。

 トーナメントで優勝を果たしたビセンゾは、「子どもが死にかけているが、治療費が払えない」という女性に声をかけられ、賞金の小切手を手渡した。それが詐欺だと知らされたとき、彼は「死にそうな子どもはいないんですね。それは今週で一番いいニュースだ」と答えた、というものだ。90年代、ウイスキーのテレビCMでも近い構成のやりとりが描かれたことがあるが、「悪意や策謀を意に介さず、ただ不幸な人がいなかったことを喜ぶ」という、器の大きい人物像を端的に示す強度の高いエピソードだと言える。

 「人はいつ死ぬと思う?」「人に、忘れられた時さ……!」というシーンも記憶に残る。こちらも古来、さまざまな言葉で語られてきた死の捉え方で、普遍性の高い名言だ。いずれのエピソードも斬新なものではないかもしれないが、『ONE PIECE』が優れているのは、ヒルルクのキャラクターに一貫性があり、その言動に説得力が宿っていることだろう。人々の記憶に残る破天荒な生き様と、命の危険すら顧みない献身性が共存しているヒルルクだからこそ、全体を通じてほとんど完璧に思える、感動的なエピソードになっている。

 ヤブ医者でありながら人々の心に火を灯し、最後には「国」という巨大な生き物が患った大病を“治療”して見せたヒルルク。ナミに愛情を教えたベルメール、サンジを一流の男に育て上げたゼフなどのキャラクターも含め、親として、あるいは師匠でありメンターとして海に送り出した人々のエピソードがあるからこそ、麦わら海賊団の魅力は分厚いものになっている。少なくとも読者はDr.ヒルルクを忘れることなく、物語が完結する日まで生かし続けるだろう。

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