〈うる星やつら〉ラムはなぜ今も魅力的なのか? 高橋留美子が描く女性キャラの“強度”を探る

うる星やつら迎合しない普遍性の凄み

 2022年10月13日(木)よりフジテレビ「ノイタミナ」ほかにて放送を開始している、高橋留美子原作のアニメ『うる星やつら』。周知のように同作がテレビアニメ化されるのは今回で2度目となるわけだが、1978年に連載が開始された漫画作品が、この2020年代になってもまだ“新作アニメ”の原作たりうる(しかもかなり話題になっている)という事実に、あらためて驚かされる。

 それはひとえに、原作が持っている普遍的な魅力、引いては、高橋留美子が生み出したキャラクターたちの“強度”が未だに全く衰えていないということだろう。とりわけヒロインのラムをはじめ、数多く登場する女性キャラたちのなんと魅力的なことか。

 そこで本稿では、高橋留美子が『うる星やつら』で描いた女性キャラについて考えてみたい。

■我が道を行く女性キャラたち

 まずはサブキャラクターたちに目を向けてみよう。しのぶ、サクラ、弁天、おユキ、ラン、クラマ、(面堂)了子、竜之介……。

 『うる星やつら』には、主人公・諸星あたるの“妻”となるラムのほかに、こうした美女や美少女たちが続々と登場してくるわけだが、並みの漫画家なら、彼女らを使って主人公にとってのハーレム状態を作り出すことだろう。

 なぜならば、(誤解を恐れずに言わせていただければ)漫画には「読者の願望」を表現するという一面があり、だとすれば、(人気を得るためにも)主人公にとって“夢のような世界”を描いたほうがいいに決まっている(実際、そういう安直な作りのラブコメはごまんとある)。

 だが、高橋はそうはしなかった。ラム(と初期の頃のしのぶ)以外の『うる星やつら』の女性キャラたちは、稀代の女好き・諸星あたるのアプローチをことごとく粉砕するのだ。と言うよりもあたるのことなどハナから眼中にない。彼女らのこうした、つまり、主人公の言いなりになどならずに自らの道を行くという頼もしい姿に、80年代の男性読者も女性読者もシビれたのではあるまいか。

■ラムというキャラが選んだ生き方

 ちなみにこういうことを書くと、「たしかにほかのキャラはそうかもしれないが、肝心のラムは“男にとって都合のいい女”なのではないか」と思う人もいるだろう。

 だが、そうではないのだ。高橋留美子は、“一人の男(諸星あたる)を全力で愛する女性”として、ラムのキャラを立てているのである。それは決して誰かに強制されたものではなく、彼女が自らの意志で選んだ生き方(すなわち“個性”)であり、だからこそ、ほかのあたるにつれない女性キャラたちとのキアロスクーロ(明暗対比)が際立つのだとも言えるだろう。

 たとえば、物語の比較的初期の段階で描かれた「君まてども…」という回がある(少年サンデー・コミックスでは3巻に収録、文庫版では2巻に収録)。このエピソードなどを読めば、なんだかんだ言ってもあたるはラムのことを愛しているということがわかるし、そんなあたるになぜラムが惹かれているのかも理解できるだろう(浮気性のあたるに腹を立てながらも、結局は彼のことを放っておけないラムが可愛い)。

 いずれにせよ、漫画やアニメにおける女性のヴィジュアル表現にさまざまな規制が求められている昨今、“虎柄ビキニでグラマラス”というヒロインの容姿が問題視されることもあるかもしれないが、そういう部分にばかりとらわれないで、高橋留美子が描いた女性たちの内面をきちんと見てほしいと、この場を借りてあらためて言っておきたい。

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