芥川賞作家・高橋弘希が語る、新境地バンド小説の裏側 音楽を志す若者たちの群像劇

芥川賞作家・高橋弘希インタビュー

  音楽の才能に恵まれ、ボーカリストとしても強烈な個性を放つ福田葵。幼馴染の音楽仲間と結成したバンドで地道なライブ活動を続けてきた彼の運命は、大手レコード会社のプロデューサーとの出会いによって、大きく動き始める。プロデューサーの提案によるメンバーの交代、ブレイク後の葛藤や不安、そして、芸術性を追求するなかで生じる、破滅への希求——。 
 
 『送り火』で第159回芥川賞(2018年)を受賞した高橋弘希の新作『音楽が鳴りやんだら』(文藝春秋)は、ロックバンド“Thursday Night Music Club”のボーカリスト、福田葵を主人公にした音楽小説。類まれな才能を備えた葵、個性と欠落を抱えたメンバーたちによるストーリーを描いた本作は、著者にとっても新境地と言える作品だ。この小説の背景には、高橋自身がバンド経験者であること、そして、彼が愛聴してきた90年代の海外のオルタナティブバンド(ニルヴァーナ、スマッシング・パンプキンズ、ソニック・ユースなど)の音楽があるという。 


 
「10代の頃にバンドをやっていたこともあり、(バンドを描いた小説は)題材の一つとして以前から“いずれ書きたいもの”のカテゴリーに入っていたんです。バンドの基本的なことはわかっているし、比較的書きやすいかったかもしれないですね。“Thursday Night Music Club”のイメージは、オルタナ経由で、ポップな感じのバンド。海外にはそういうタイプのバンドが多いんですけど、日本にはあまりいない気がしていて。“邦楽でこういうバンドがいたら面白いな”という理想もありました」 
 
 作詞・作曲の天賦の才、そして、フロントマンとしての華を持ち合わせた主人公・葵をはじめ、葵に心酔する天才ベーシスト・朱音、幼少期に苛烈な体験をしているドラマー・九龍、身体的なハンディキャップを持ったギタリスト・昴と、個性豊かなバンドメンバーの造形にも強く惹きつけられる。幼馴染の元バンドメンバーー音楽的な能力の問題によりバンドを脱退するーーを含め、本作『音楽が鳴りやんだら』には、音楽を志す若者たちの群像劇としての魅力が備わっているのだ。 
 
「もともと文芸誌(『文學界』)に連載していた小説で、面白く書こうというのは最初からありました。バンドは小さいチームみたいなもので、メンバー同士の関係性もそうだし、わりとエンタメっぽくなっていくんですよね。主人公の葵は、音楽の才能があって、わりと無茶するヤツという感じかな。特にモデルがあるわけではないのですが、破天荒で若くして死んでしまった海外のミュージシャンのイメージもありましたね」 
 
 臨場感に溢れたライブの場面、レコーディングや楽曲制作におけるメンバー同士の生々しいやりとり、そして、葵がメロディや歌詞を虚空から掴み取る瞬間。音楽が生まれる一瞬をとらえた濃密かつ緻密な文章こそが、この作品の真骨頂だろう。

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