テレビアニメ『ベルセルク』とポスト・レイヤーの美学ーー渡邉大輔の『ベルセルク』評

渡邉大輔の『ベルセルク』評

 世界中で愛読されるダークファンタジーの傑作漫画『ベルセルク』。作者の三浦建太郎が2021年5月6日逝去したことで未完となっていたが、かつて三浦を支えた「スタジオ我画」の作画スタッフと、三浦の盟友・森恒二の監修によって、2022年6月24日より連載が再開したことでも話題となっている。

 同作は後世に何を伝えたのか? 社会学者の宮台真司、漫画研究家の藤本由香里、漫画編集者の島田一志、ドラマ評論家の成馬零一、作家の鈴木涼美、暗黒批評家の後藤護、批評家の渡邉大輔、ホビーライターのしげる、漫画ライターのちゃんめいという9人の論者が、独自の視点から『ベルセルク』の魅力を読み解いた本格評論集『ベルセルク精読』が、本日8月12日に株式会社blueprintより刊行された。

 『ベルセルク精読』より、渡邉大輔による論考「テレビアニメ『ベルセルク』とポスト・レイヤーの美学」の一部を抜粋してお届けする。(編集部)

 『ベルセルク』と現代アニメの3DCG表現

 2016年と17年にそれぞれ2クールにわたって放送されたテレビアニメ『ベルセルク』は、三浦建太郎のマンガを原作とするテレビアニメ化としては、1990年代後半の『剣風伝奇ベルセルク』(1997~98年)に続く2期目である。ちなみにこの間には、2012年から13年に原作の「黄金時代篇」を映像化したSTUDIO4°C制作による劇場用アニメーション映画『ベルセルク黄金時代篇』が三部作として製作されている。

 本作は、数多のサーガと同様、原作マンガも30年近くにわたって展開される壮大な物語であり、メディアミックスによる関連コンテンツも多く、私には、すべてを見渡して論じることは覚束ない。編集部からの要請も受けて、本稿ではこの2010年代に制作されたテレビアニメ第2期(全24話)に絞って論じることにする(以下、単に『ベルセルク』と記す際、本稿ではこのテレビアニメ第2期を指すこととする)。

 『ベルセルク』の物語は、基本的には劇場版の黄金時代篇の続きから開始する。物語の舞台は、中世ヨーロッパを髣髴とさせるミッドランド王国の辺境。巨大な鉄剣を背負い独り諸国をめぐる「黒い剣士」ガッツ(声:岩永洋昭)は、居合わせた安酒場で妖精パック(声:水原薫)や盗賊の少年イシドロ(声:下野絋)と出会う。その後も、黙示録の予言を調査するチューダー帝国聖鉄鎖騎士団の団長ファルネーゼ(声:日笠陽子)とその従者セルピコ(声:興津和幸)といった登場人物とともに、ガッツは各地で蠢く使徒や悪霊と戦う旅を続ける。第1クールの中盤以降は、かつて「鷹の団」でともに戦い、やがて愛しあったキャスカ(声:行成とあ)の行方を追い、聖地アルビオンで邪教徒たちに捕われていた彼女を救い出す原作の「断罪篇」の「生誕祭の章」に対応する物語が描かれる。

 続く第2クールは、その後の「千年帝国の鷹篇」の「聖魔戦記の章」が中心に描かれる。かつて「鷹の団」を率い、ガッツとは宿命のライバル関係でもあったにもかかわらず、「闇堕ち」したグリフィス(声:櫻井孝宏)が受肉し、ガッツと再会する。その後、旅の途中で迷い込んだ霊樹の森で魔女シールケ(声:斎藤千和)とその師フローラ(声:島本須美)と出会い、ガッツは彼らとともに悪霊と戦うことになる。物語は、終盤、原作の「鷹都の章」の冒頭、一行が貿易都市ヴリタニスに赴いたところまでで幕を閉じる。原作を元にしているものの、散発的な映像化ということもあり各所でアレンジが加えられ、また原作者の三浦は総監修も務め、第1クールの第3話など三浦によるオリジナルストーリーも加えられた。

 さて、この『ベルセルク』の特徴といえるのが、やはり映像全体にわたる3DCGの活用だろう(正確には手描き作画と2DCGのハイブリッド)。本作の制作は、監督の板垣伸の妻・白石直子が2013年に設立したミルパンセだが、共同制作としてCGをGEMBAが手掛けている。日本のテレビアニメでは2010年代に入り、『アイカツ!』(2012~16年)などのアイドルアニメのダンスパートで3DCGが盛んに用いられるようになったほか、『蒼き鋼のアルペジオ―アルス・ノヴァ―』(2013年)でほぼ全編フル3DCGの作画が試みられた。その後、『ベルセルク』の第2クールが放送された年にオレンジが制作した京極尚彦監督の『宝石の国』(2017年)の先鋭な表現が衝撃を与え、同じオレンジ制作の『BEASTERS』(2019~21年)、グラフィニカ制作のアニメ映画『HELLOWORLD』(2019年)といった、3DCG主体でありながら日本のリミテッドアニメの特徴も巧みに活かした作品が2010年代を通じて続々と作られることになった。

 つまり、『ベルセルク』は、その意味で日本の商業アニメーションにおいて3DCGによる新たな表現が模索されていた過渡期に作られた作品だったといえる。

続きは『ベルセルク精読』掲載 渡邉大輔「テレビアニメ『ベルセルク』とポスト・レイヤーの美学」にて

■書籍情報
『ベルセルク精読』
著者:宮台真司、藤本由香里、島田一志、成馬零一、鈴木涼美、渡邉大輔、後藤護、しげる、ちゃんめい
発売日:8月12日(金)
価格:2,750円(税込)
発行・発売:株式会社blueprint
購入はこちら:https://blueprintbookstore.com/items/62de2f520c98461f50f0881e

■目次
イントロダクション
宮台真司 │ 人間の実存を描く傑作『ベルセルク』
藤本由香里 │ 三浦建太郎という溶鉱炉 -追悼・三浦建太郎-
島田一志 │ マイナーなジャンルで王道のヒーローを描く
成馬零一 │ 私漫画としての『ベルセルク』
鈴木涼美 │ 穢されないのはなぜか -娼婦と魔女がいる世界-
渡邉大輔 │ テレビアニメ『ベルセルク』とポスト・レイヤーの美学
後藤護 │ 黒い脳髄、仮面のエロス、手の魔法
しげる │ フィクションと現実との境界線に突き立つ「ドラゴンころし」
ちゃんめい│ 後追い世代も魅了した「黄金時代篇」の輝き
特別付録 成馬零一×しげる×ちゃんめい │『ベルセルク』座談会

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