『鬼滅の刃』や『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』にも 漫画やアニメの聖地を造った建築家・辰野金吾の足跡
辰野金吾(1854~1919)といえば、赤レンガの「東京駅丸の内駅舎」の設計者として有名な、日本近代建築の巨匠の一人である。唐津藩(現:佐賀県唐津市)の下級武士の出身だったが、工部大学校(現:東京大学工学部)の造家学科を主席で卒業。イギリスに留学し、帰国後は明治建築界のトップランナーとして活躍した。
■多くの漫画を彩る辰野金吾の建築
東京駅のほかに「日本銀行本店旧館」が代表作として知られ、晩年は「国会議事堂」の設計に情熱を燃やすが、大正時代に大流行したスペインかぜに罹ってしまい、志半ばで没してしまった。
そんな辰野の建築は数多くの漫画やアニメに登場し、“聖地”となっていることでも有名である。もっとも、東京駅が登場している作品は膨大な量になるため、ここでは敢えて他の建築の例をいくつか紹介してみよう。
歴史的な大ヒットとなったアニメーション『鬼滅の刃』では大正時代の日本の風景が描かれるが、鬼舞辻無惨と出会う浅草の風景に「浅草国技館」が登場している。国技館といえば両国のイメージだが、当時は浅草にもあり、「浅草十二階(凌雲閣)」とならぶシンボルだった。ちなみに辰野は初代の両国国技館も設計しているが、無類の相撲オタクであり、息子を相撲部屋に入門させたという逸話もある。残念ながら、浅草国技館も初代両国国技館も取り壊され、現存していない。
京都アニメーションの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のC.H郵便社は、京都市の三条通りに立つ「旧日本銀行京都支店(現:京都文化博物館別館)」がモデルである。先に設計された日本銀行本店旧館は重厚な石張りだったが、京都支店は赤レンガを使った軽快なデザインになっている。繁華街である三条通りにふさわしい華やかな建築であり、辰野が壁面に赤レンガを用いた初期の作品としても重要だ。京都アニメーションは以前にこの建物を会場に「京都アニメーション・スタッフ座談会」というイベントを行っているため、馴染みがあり、舞台として選定したのかもしれない。
さきの参議院議員選挙で当選した“国会議員漫画家”赤松健の代表作『ラブひな』では、岩手県盛岡市を訪れる場面で「岩手銀行旧本店本館(現:岩手銀行赤レンガ館)」が登場する。また、『魔法先生ネギま!』の麻帆良学園は、埼玉県深谷市にある深谷駅がモデルになっている。深谷駅は辰野金吾の設計ではないが、東京駅をモデルにデザインされた駅舎だ。これは、深谷の日本煉瓦製造というレンガ工場で焼かれたレンガが、東京駅に用いられたことに因んだものだ。工場の設立には、深谷出身の渋沢栄一が関与している。ちなみに、辰野は東京の兜町にあった渋沢の自宅も設計し、公私ともに交流があった。