天童荒太が語る、新たな物語が生み出される理由 『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』刊行

天童荒太インタビュー

――バンドが出演した春フェスのステージにヘイト団体が来る場面には胸が痛みました。在日コリアンでボーカルのミンジョンは歌えなくなってしまい、バンドは演奏をやめてダイ・イン(その場に横たわり、死者になりきることで抗議を示すデモの形式の一つ)を行います。 

天童:ヘイトに対してどう反応すれば、自分たちの権利を一番届くかたちで伝えられるのか。暴力で返すのではない、包帯クラブらしいやり方は何か。あのシーンではそのことを考えていました。この世界にはヘイトクライムを含めて多くの差別や暴力が起きていて、時にはヘイトのほうが守られることもある。そんな中で、自分たちが傷ついたことをどう可視化させるのがいいかを考えた時に、日本ではあまりポピュラーではないけれどダイ・インという方法を思いつきました。 

――傷つきの可視化という点では、包帯を巻くことと一貫していますね。 

天童:そうですね。あの場で包帯を巻きはじめるのもしっくりこなかったですし、かたちは違いますが同じように誠実なやり方が描けたと思っています。

物語が人の感情を動かし、支える

――天童さんが物語を作る時に大切にしていることはなんですか? 

天童:プロットではなく、人物の動きを優先することですね。物語を書く時はどの作品でもまず場所の地図を描いて、登場人物の背景を考えます。設定が固まると自然に人物が動き出すのですが、その時、彼らは想定していたプロットに沿わない言動を取ることがある。でも、「プロットだとこうだから」と行動を制限すると、なんだか釈然としない物語になってしまいます。だって、人間の世界はそんなわかりやすいものではないですからね。 

 大事なのは登場人物の言葉に乗っかること。目の前にぽんと出た言葉を信用することです。そうすると元々のプロットからは離れていくし、話も長くなっていく。だけどそこに物語を書く醍醐味があると思っています。 

――『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』の物語に話を戻すと、大人になった包帯クラブのメンバーは、紛争地域でそれぞれ活動しています。現実でもロシアのウクライナ侵攻があり、重ねながら読みました。現在の戦争を見ていて感じることはありますか。 

天童:思うことはたくさんあるのですが、自分の立場から語るとすれば、物語の持つ力について考えています。私たちは「悪いことをするとひどい目に遭う」、「懸命に頑張れば人は信用してくれる」、「死んだ人が天国で見守っていてくれる」といった物語を、どこかで心の支えにして生きていますよね。キリスト教などの宗教も物語をもとに広がっていきましたし、我々の常識や道徳感も、物語を通して学んできたものがたくさんあります。 

 実際の問題に対処するときは現実的な手順が必要ですが、人の感情を動かし、支えるのは物語です。気候変動にしても、グレタ・トゥーンベリさんの発言が多くの人を動かしたのは、子どもたちがこれからの世界を作っていくんだという大きな物語が響いたからでしょう。 

 助け合うことや不当な暴力に抵抗する物語がもっとあれば、世界は良くなっていくのではないでしょうか。そうした物語を大切にしていかないといけないし、その責任は自分にもあると思っています。

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