佐々木チワワが語る、SNS時代の歌舞伎町研究 トー横キッズ、ぴえん系、ホストたちを見つめて

佐々木チワワインタビュー

ホストの世界に見るルッキズム/エイジズム


――少し話は変わりますが、佐々木さんが最近ハマっているものはありますか。

佐々木:最近というかずっとですが(笑)、ホストですね。

――佐々木さんにとってのホストとは、どのような存在なのでしょうか。

佐々木:昨今のホストにはまる人は、大きくは「ホスト狂い」と「担当狂い」に分けられます。たくさんのホストと遊びたいと思って、いろんなお店にふらふら行くタイプと、一人のホストに熱を上げて、そのホストの店にしか行かないタイプですね。ここ最近の私は後者で、一人のホストをずっと指名しています。すごく魅力的で、私の仕事を尊重してくれる人です。

――現在のホストの営業活動も、SNSの駆使をはじめとして多種多様だそうですね。

佐々木:現在、歌舞伎町にはおよそ270店舗のホストクラブが存在していて、大きめの店だと50人から80人ほどのホストが在籍しています。普通に考えれば、店の人数が多いほど個々のホストにはチャンスは少ないですし、小規模なお店の場合は逆に来店者数が少なかったりもするので、営業活動は重要になります。そして現在、その要になっているのがSNSの存在なんですね。

 (「ホスト界の帝王」と称される)ROLANDさんが皮切りになりますが、今のホストは、Twitter、Instagram、YouTube、TikTokと、あらゆるSNSで発信することが求められます。これにより、TikTokの短い動画がバズりさえすれば、歌舞伎町に行かない子にもアプローチができるようになりました。実際、これまでホストクラブに行った経験はなかったけど、新たに行くようになった女の子も多いようです。また、毎月1000万円近く一人の子が使っているホストさんに、「その子とどこで出会ったんですか」と聞いたら、マッチングアプリだと言われたこともありました。オンラインでの積極的な発信が、ホストクラブの可能性を大きく広げたと感じます。

 ただ、ホストクラブに通う女の子の視点からすれば、通い続けるにはそれなりにお金はかかりますし、ホストにはまると、店に行く金を維持するために夜の仕事に手を出すケースも少なくはありません。必ずしもホストの発信が喜ばしいとは言えない一面もあります。

――SNSの場合は、フォロワー数やPV数などで、ある程度はユーザーの人気度が可視化されますね。またそれによって、より見栄えのするホストの方に人気が集まるような、いわばルッキズムによって序列化がなされるような側面もあります。またホストへ遊びに行く女性たちに対してもそのような傾向があるように思います。そのあたりついては、どのようにお考えですか。

佐々木:もともと、ホストの世界は徹底的に数字主義なわけですが、今はそれがだだ洩れになっているところはあります。「指名がゼロだったら俺の価値はゼロ」だとか、逆に「みんなが指名してくれるから俺は尊い」とか、ホストが自分の商品価値についてばんばんツイートすることももはや珍しくはありません。自分についてのツイートならまだいいのですが、他者の価値にまで話が及ぶと、状況は違ってきます。ホストがTwitterで、「売れてない時代に60歳のお客さんとも外で会っていました」とか、「すごいデブな人とも寝てました」などと発信するのは、そもそもそういう人たちを相手にしたくないという前提があるわけですよね。女の子側はどんな容姿であっても、お金さえ払えばお姫様になれるというのがホストクラブの基本的な掟ですが、お客さんを容姿や年齢によって差別するようなツイートが目立つようになると、これまでに存在した、ホストの美学のようなものも壊れてしまうという危惧はあります。

――ホスト界における価値観の転換に加え、そうした発信が外部に広まることで、不特定多数の人の価値観に影響するようなこともあると思います。

佐々木:まさにその通りで、一つには、女の子にある種の強迫観念のようなものを植え付けるリスクがあります。たとえば、ホストが「こういう子は好みだ」「こういう子は痛い」などとツイートすると、女の子たちが自分の外見や雰囲気を直して、結果的に本来の自分の姿から大きく外れてしまうようなケースもあるでしょう。また、直接店に来てくれる女の子以外にも、SNSでは不特定多数の人が投稿を見ることになりますし、言ってしまえば、バズるために誇張したエイジズムやルッキズムが丸出しの内容が、正しい価値観として多くの人に刷り込まれていくという懸念もありますね。


――現在、「推し」という言葉がポップカルチャーの中で注目されています。一般的な推しと、歌舞伎町における推しには何か違いはありますか。

佐々木:世間一般の「推し」はアイドルや俳優で、歌舞伎町の「推し」はホストやキャバ嬢、コンカフェ店員という構図になると思います。その違いは、アイドルや俳優もまたファンを大切にするとはいえ、基本的には前者は思いが一方的で、後者は連絡が取れたりと相手から日常に入り込んでくるシステムが存在するということにあると思います。ホストは女の子も自分に価値を見出してくれる、自分に安心を与えてくれる存在として尊重しているところがありますので。

 そして、ホストの中にも、受容する側にとっては違いがあります。私の場合「推し」として指名しているホストと、「人」として指名しているホストがいます。その違いをわかりやすく言えば、推しのホストは、自分が推したくてお金を使っているだけなので、彼がこっちのことをどう思っているかはどうでもよかった。すっぴんでも、ジャージでも、自分の外見は気にせずに接することができます。逆に、人として見るホストの場合は、ある程度は対等な関係を築きたい、相手にいい存在として認知されたいという思いがあるので、ちゃんとした服を着ることや、相手目線に立ったコミュニケーションを意識するようになります。

――本書では見田宗介をはじめ、社会学者の論考も多く散見されますが、佐々木さん自身が目標としている書き手や、薫陶を受けた書き手はいらっしゃいますか。

佐々木:本を出してから「宮台真司になりたいんですか、鈴木涼美になりたいんですか」と聞かれることがあります。そこで「林真理子さんです」と言うとウケるんですけど(笑)、ただ特定の方というよりは、多くの方との貴重な出会いがあって、今の私がいると思います。

 鈴木さんは大学の研究会が一緒で、執筆分野も近いのでシンパシーは強いですし、宮台さんは「現場」を重視し、フィールドワークを重ねられている点では学べることが大きいです。また、大学で卒論指導を担当していただいている、小熊英二さんへの尊敬の念も強いですね。

 卒論はホストクラブについて書く予定です。小熊先生はホストクラブについて体験としてはご存じでないとは思いますが、古典的な社会学の観点から、有益なアドバイスをいろいろとしていただいているので、何百年たっても変わらない人間社会に対する理解は深まります。いろんな先人たちの知見を参照しつつ、自分の道を歩んでいければと思います。

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