犯人目線だと金田一少年は“サイコ”? 原作愛あふれる『犯人たちの事件簿』が面白い

金田一少年は“サイコパス”?

 本作の楽しみは犯人たちの苦労話に限らない。金田一のドSっぷりも楽しめるのだ。

 読者として犯人を探す分には金田一は頼もしい味方だし、犯罪すら娯楽にするエンターテイナーだ。だが、演出がかった謎解きと話数をまたぐための仰々しい焦らし、単なるエロと見せかけて実は確信に迫る計算高さなど、犯人の立場からしてみれば、絶対に敵に回したくない相手だろう。

 特に、謎解きパートのDIYを駆使した辱めは、犯人に同情をせずにはいられない。犯人であることを名指しされるその瞬間まで、「一体誰が犯人なのでしょう」という演技をしなければならない精神的負担を考えたら、お腹がキリキリしてトイレに駆け込みたくなる。

 そして、実はかわいそうな犯人たちに追い討ちをかける作品がある。それが、「金田一少年の事件簿と犯人たちの事件簿 一つにまとめちゃいました。」シリーズだ。

 オリジナルのストーリーを金田一視点と犯人視点で一気に読めてしまう、犯人をさらに辱める一冊。「まとめちゃいました。」なんて軽いノリのタイトルだが、破壊力は抜群だ。思わず「もうやめて、とっくに犯人のライフはゼロよ!」と叫ばずにはいられないだろう。

 だが、金田一に完膚なきまでにネタバラシされた犯人たちが溜飲を下げる物語も存在する。それが『金田一37歳の事件簿』だ。

 37歳になった金田一はブラック企業に就職している。IQ180の頭脳で犯人をいたぶっていた彼も、社会に出れば、それなりの苦労を経験する。『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』は、犯人に敗因を語らせて幕を閉じるパターンを採用しているが、最終的に負かすのは、金田一自身なのでは……、そんな風につなげて考えてみたくなる。

 とにもかくにも、筆者は『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』が好きだ。五代目金田一のドラマが放送されている今、久しぶりにコミックを手に取ってみようと思っている人も多いかもしれない。そのときは是非、『犯人たちの事件簿』も手に取ってほしいと思う。

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