パリピな孔明、総理大臣信長、おにいさんのブッダにキリスト……今の日本に降臨してほしい偉人は誰?

『パリピ孔明』ヒットで考える偉人転生モノ

 少し前なら織田信長に転生してもらって、ユルんだこの国の政治をグッと引き締めてほしいと思っていた。今は諸葛亮孔明に復活してもらって、あれもこれも立て直してほしいと思っている。TVアニメが始まって面白さがより広く知れ渡った四葉タト原作、小川亮作画による『パリピ孔明』のせいだ。

 「死せる孔明、生ける仲達を走らす」という故事にもあるように、病没してもなお孔明は、丞相を務めていた蜀の軍隊に迫る司馬懿仲達率いる魏の軍を、退かせるだけのキケンな存在感を漂わせていた。その孔明が生きて現代の日本に復活したなら、いったいどれだけの偉業を成し遂げるだろうか?

 後漢末期の混乱した時代に軍師として劉備玄徳を支え、関羽や張飛といった勇猛果敢な武将たちとともに蜀という国を打ちたて、三国時代の一角を担った孔明だ。その知略をもって1990年代のバブル崩壊以降、長く停滞を続ける日本という国を今一度、競争の最先端に踊り出させてくれたに違いない。

 ところが、若い姿となって復活した孔明は、国よりもひとりの少女とともに踊ることを選んだ。転生したハロウィンまっただ中の渋谷で、鬼のコスプレをして歌っていた月見英子の歌声に魅入られた孔明は、軍師となって世界的なシンガーを夢見る彼女の望みを、本当のことにしようと決意する。

 ここから始まる英子と孔明の動きのことごとくが、三国志の中で繰り出されて来た孔明の策や、中国史の故事にならったものというところが、三国志ファンや歴史ファンの心をくすぐる。劉備軍を追撃しようとした陸遜の軍を寄せ付けなかった「石兵八陣」。兵法三十六計にあって小さい策にわざと気づかせ、大きな策を見過ごさせる「夢中生有」。それらがどのような場面で繰り出され、どのような効果をあげるかに驚き、面白がれる。

 そもそも孔明が英子にかけようと決めたのが、3度その歌に魅入られるという「三顧の礼」にならったもの。英子がラッパーや孔明といった、仲間と共に成功を願い乾杯する「桃園の誓い」もあって、三国志マニアなら「これこれ!」と歓喜したくなる。

 クラブイベントや音楽フェスで、別のステージに人気アーティストをぶつけられた時に、どうやって観客を自分たちのステージへと集めるのか。そこで繰り出される孔明の策は確かに凄い。ただ、いくら策が繰り出されたところで、中心にいる英子が本物でなければ成功はあり得ない。

 才能を持ったアーティストが、本気で成功を願って突っ走るストーリーが核にあるからこそ、『パリピ孔明』は歴史に興味がない人が読んでも、しっかりと楽しめる作品になっている。

 最新の第9刊では、巨大なフェスを前に凄腕のミュージシャンたちがレーベルの壁を乗り越え、結集できるのかといった難題に、孔明の策が繰り出される。その過程で、金こそがすべてと言いながら、アーティストのことも思ってあげたい音楽業界の人たちの心情が浮かび上がってくる。そこまで人の心を読むのかと、孔明の凄さにひれ伏したくなる。

 だからこそ余計に、孔明が政治の世界で活躍したらどんな国になるのかと思えて仕方がない。知略によって誰もが暮らしやすい社会になったことだろう。これが織田信長だったら、気に入らない政敵は斬首し、逆らう勢力は焼き払ったかというと、以外に高い決断力で有効的な改革をやってのけたのではないか。そう思わせてくれるのが、志野靖史による漫画『内閣総理大臣 織田信長』だ。

 転生とか復活といった前置きはなしに、織田信長が政権を取って総理大臣になり、羽柴秀吉や徳川家康が入閣して政権を運営するという内容は、信長の思いつきに秀吉が振り回され、家康がハラハラし、そんな信長を妹のお市が諫める「武将あるある」に溢れている。そこは「三国志あるある」の『パリピ孔明』と同じだ。

 1994年から1997年にかけての連載だったこともあり、使われているのがスマートフォンでも携帯電話でもなく固定電話。それで長距離電話をかけすぎて、請求が厖大になったからといって電話料金を無料にすると言い出すあたり、織田信長ならではの傍若無人さは否めない。

 ただ、方便として楽市楽座を例に挙げ、経済的な負担なしに人々が話せるようになることが大切なのだと言ったのは、案外に正解だったのかもしれない。後にインターネットが普及して誰とでも手軽につながれるようになり、新しい交流が生まれ、そこに新しい産業が生まれたのだから。やるではないか信長。果断さが政治家には必要だということだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる