他者と身体や体験を共有できる時代に? 気鋭の工学者・玉城絵美が語る「ボディシェアリング」という技術

ボディシェアリング玉城絵美インタビュー

 自分の身体がもうひとつあったらいいのに。誰もがそう思ったことはあるのではないだろうか。

 4月、琉球大学工学部教授の玉城絵美による『BODY SHARING  身体の制約なき未来』(大和書房)が発売された。 本書ではテクノロジーを使って身体を「シェア」するという新しい考え方が提示されている。視聴覚や身体の動きなどをデジタルデータ化し、ロボットやヴァーチャルキャラクター、他者の身体などのアバターで、自分がそこにいるかのような体験ができるという。 

 そんなボディシェアリングとは、いったいどんな概念なのか、どこまで実現可能なのか。そしてどんな未来が待っているのか? じっくりと話を聞いた。(藤井みさ) 

自分の部屋にいながら、ビーチで泳ぐことができる? 

――まず、「ボディシェアリング」という考え方について教えていただけますでしょうか。 

玉城絵美(以下、玉城):ボディシェアリングは、アバター、ロボット、遠隔地にいる人間など、自分ではない他の身体と、一方的な情報受信ではなく、インタラクション(相互作用)によって「体験共有」をするという考え方です。 

 アリストテレスが提唱した視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の「五感」、仏教ではそれに意識を加えた「六根」などが人間の感覚のように言われていますが、それは紀元前からある考え方です。本当は人間が持っている感覚はもっと多く、20以上あると私は考えています。それを精査していった結果、「位置覚」「重量覚」「抵抗覚」などの「固有感覚」を共有することで、臨場感のある体験共有ができると考えています。

本書より「ヒトの感覚の分類」

 
――感覚がそんなにたくさんあるとは、意識していませんでした。 

玉城:ほとんどの人が、「iPhoneのボタンがなくなった!」とかデバイスのインターフェースには敏感なのに、自分たち人間自身のインターフェースには無頓着なんですよね。ボディシェアリングは、人間自身のインターフェースと向き合って開発している技術になります。 

――現在でもVRのような技術はありますが、それともまた違うということですよね。 

玉城:五感で「感じる」だけだと、受動的な体験にとどまります。例えばテレビ会議の向こうでビーチで楽しんでいる様子を見せられても、単に「うらやましい」と思うだけですよね。でもビーチの風を感じて、砂をつかめたり、実際に歩いたり泳いだりなど「能動的」に動く感覚を味わえたら「自分も体験している」と思える。それこそがインタラクションです。 

ボディシェアリングの例。玉城氏が代表を務めるH2L株式会社の動画

外出困難者も「体験」をできるように

――玉城さんがボディシェアリングという考えに至った経緯を教えていただきたいです。 

玉城:もともと、ひきこもり体質なんですよね(笑)。私は先天性の心臓疾患があって、高校2年生から大学2年生ごろまで、長期入院を繰り返していたんです。入院生活は快適すぎて、「よしきた!」と思ったんですけど(笑)。同じ病棟の人たちが、朝6時に起きてみんなでおしゃべりを始めるんです。 

 病棟には私のような10代や20代から80代までさまざまな女性たちがいたんですが、会話の中心はいつも70代や80代のおばあちゃん。とにかく人生でいろいろな経験・体験をしていて、話がおもしろいんです。みんな入院期間は外に出られなくて「体験」に飢えているから、いままで体験してきた人の話をより求める、ということもあったと思います。その時感じたのは、「体験ってすごく重要なんだな」ということ。機会損失して体験ができないということは、人生において大きな欠落なんだろうなと感じました。その時から「外出困難者がよりよく引きこもれるような技術を作ろう!」と思うようになりました。 

――実際にボディシェアリングを体験するときは、どんな感覚になるのでしょうか。 

玉城:イメージとしては、二人羽織のようだと考えてもらえればわかりやすいかと思います。人間同士でボディシェアリングをするとしたら、現地にいる人の体を「借りる」という感じですね。もちろん、人間同士だけではなくロボットとも感覚を共有できます。 

 現在だと、ロボットを動かすのには角度や力加減などさまざまな数値を入力して動かすことが一般的ですが、ボディシェアリングでは筋肉の動きをセンサーで共有して伝える形になるので、操作に慣れていない人でも簡単に動かすことができます。イチゴを摘むロボットを作ったのですが、操作初心者でも始めてから1分ぐらいで自分の手と同じように動かせるようになるという結果も出ています。 

カヤック観光体験をBodySharing技術で提供

 それから、カヤックロボットなども開発しています。座っている時の水から伝わる揺れの感覚、パドルを使って漕ぐ時の水の抵抗などを感じることができます。実際に下半身不随の子供たちに体験してもらって、旅気分を味わってもらうといったこともしていますね。 

――著書の中で、「牛になる」体験が強烈だったと書かれていましたね。 

玉城:あんなの、やっちゃいけません(笑)。お腹にセンサーをつけて四つん這いになって、メタバース上の牛とボディシェアリングをして搾乳されるという体験だったのですが、あまりにも没入感と臨場感がすごすぎて……。終わったあとも、「二足歩行ってどうするんだっけ?」と1分ぐらい混乱が続いて、立ち上がれませんでした。自分の体とは違う体験共有をすると、それを処理しきれないというところもあるんだと思います。

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