ふたりの老紳士と刺青入りの青年ーーフィンランドを舞台にした物語『ホテル・メッツァペウラへようこそ』があたたかい
フィンランドの知られざる文化を知ることも
この物語に花を添える、フィンランドでは馴染みの深いあれこれにも注目したい。例えば、ホテルにある『オーロラ観測部屋』。天井の一部がガラス張りとなっている部屋だ。ソファ椅子に寝転がりながら、広々とした視野に星やオーロラを眺めることができる。こうしたオーロラを観測するための部屋が、ラップランド地方のホテルには多い。
また、倉庫でジュンが誤って割ってしまった瓶に入っていた『ニシンの酢漬け』。フィンランドではよく食べられ、クリスマスディナー定番の前菜としても有名だ。日本の北海道でもニシンの捕獲量は多く、ニシン漬けは北海道のソウルフードのひとつとなっている。冬の長期保存にも最適らしい。
さらに、ホテルの食事を残し、食欲がないと言うお客様に対し、ジュンが「どうぞ」と手渡したチョコは、『Fazer(ファッツェル)』のMarianne(マリアンヌ)ミントチョコキャンディーのパッケージのようにもみえる。赤と白のストライプ柄でかわいい包み紙も人気だ。Fazerは120年以上愛され続けるフィンランド土産の定番であり、日本のチョコレート菓子にもよく似ている、なめらかで口どけがいいチョコだ。
本作を読むことで、こうしたフィンランドならではの食事や文化、歴史に触れられることも、気軽な海外旅行ができなくなってしまったコロナ禍での楽しみ方のひとつである。
ホテル・メッツァペウラには、さまざまな事情を抱えているお客様が訪れる。ジュンもそのひとりだろう。まだ、重く分厚い雪が、壁のように心を覆っているかもしれない。これから春、夏にかけてのこの季節。雪と氷に覆われた冬のラップランド地方でも雪解けの季節を迎えていくように、ジュンにもそんな日が来てほしい。そう願わずにはいられない。
■書誌情報
『ホテル・メッツァペウラへようこそ』ハルタコミックス1~2巻
作者:福田星良
出版社:KADOKAWA