『幽☆遊☆白書』蔵馬と少女漫画の男性キャラは何が違う? 女性読者が推し続ける三つの理由
最後に蔵馬最大の特徴を言いたい。幽白の四人のメインキャラの中で、唯一、本編で今後恋に落ちそうな女性が現れないのが蔵馬だ。
蔵馬と飛影の出会いを描いた番外編だと、唯一、過去に蔵馬と両想いだった女の子が登場するが、そのときの蔵馬は自分のせいで彼女を危険にさらすことを恐れ、彼女の心にある自分への想いを忘れさせる。
ほかの三人を見てみると、本編でも周囲に異性の存在を感じる。主人公の浦飯幽助の相手役はまぎれもなく幼なじみの螢子で彼女は本作のヒロインだ。ふたりはいつもケンカをしているが、両想いであることは登場人物も読者も早い段階でわかっていた。
いわゆるヤンキーだが人間的なあたたかみのある桑原和真は、作中で自らが助けた妖怪(氷女)の雪菜に恋をして、終盤では雪菜が人間界で桑原の家にホームステイすることが明かされている。
そして蔵馬以上の人気を誇る飛影は、実の妹である雪菜を自分が兄だと明かさずに守り続ける一面があり、終盤では女性の妖怪・軀(むくろ)のつらい過去をぬぐい去るため行動する場面があった。飛影と軀がこれから恋愛関係になるとまでは言い切れないが、このエピソードで今後をほのめかすような印象をいだいた読者も多いだろう。
蔵馬だけが、最後まで本編で女性の存在を感じさせない。彼が人間界でもっとも大切に思っているのは母親である。
幽白が少女漫画で、もしヒロインが慕う男の子が蔵馬ならどうだろう。最後はかならず両想いになり、完結と同時に読者の心は主人公と結ばれた男性キャラから離れていくことがほとんどだ。だが蔵馬の場合、そうはならず、相手役不在のまま幽白は完結する。
同じ作者が描いている『HUNTER×HUNTER』のクラピカは、蔵馬に似たキャラとしてよく引き合いに出されるが、彼も本編の蔵馬と同様に女性に惹かれる描写がない。『HUNTER×HUNTER』の場合は恋愛要素がほぼ皆無なので、これはクラピカに限定したことではないが、幽白の場合はあえてそうしたように思えてならない。
女性を恋愛対象として認識していることを番外編で明かしながら、本編では蔵馬の恋はまったく描かれることがなく幕を閉じるのだ。
こうして蔵馬は、非現実的な理想の男性としての存在感を浮かび上がらせるキャラクターとなり、連載終了から30年近く経った今も、女性たちの心をとらえ続けている。