世界一のイリュージョニスト・HARAが説く、“夢を持つこと”の本当の意味 「人生の最期にちょっとでも笑うために」

イリュージョニスト・HARAインタビュー

人間、守るものなんてない

――意識的に何かをインプットするというスタイルではないのですね。

HARA:でも、本はめちゃくちゃ読みます。本を通して、人生を変える言葉と出会えたりしますから。印象に残っている本だと、岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て』。ラスベガスの大会で優勝をしましたが、「HARAは所詮ジュニアクラスだからな」って声が聞こえてきたことがあったんです。悔しくて2012年に大人クラスの大会に出てチャンピオンになることができたんですが、自分が目指したいのはエンターテインメント性のあるショー。マジック界の大人部門で1位になっても、夢に達していないと思ったんです。そこで、もう一度ラスベガスで修行して、英語も学んで「マジシャン」から「イリュージョニスト」になると決意したんですが、その頃、日本での仕事がかなり詰まっていて。それをすべてキャンセルしてアメリカに修行しに行くのはどうなんだろうと悩んでいたことがありました。そんな時に、たまたま『自分の中に毒を持て』を手に取って読んでみたら、「みんな人生は積み重ねだと思っているけど、むしろ積み減らすべきだ」「積み減らしていくほど新しいものが生まれる」という余白の美学のような話が書いてあったんです。その言葉に背中を押してもらって、翌日クライントにアメリカ修行に行く旨の連絡したのですが、そこから不思議なサイクルが回り出しました。

 アメリカ修行は決めたものの、とはいえお金がない。そこで事業計画書を作って知り合いの社長さんにプレゼンをして資金集めをして、渡米しました。ですが、イリュージョンショーを作るのには莫大なお金がかかるので、日本に帰ってきた時には貯金はほぼゼロ。どうやって資金を出してくれた社長さんへお金を返していこうかなと思っていたら、その翌々日くらいに英語のメールが来たんです。それを見てみたら、「ダイヤモンド・プリンセス号(※イギリスを旗国とし、世界を周遊する豪華クルーズ船)の専属イリュージョニストとして契約したい」というオファーでした。その契約金が結構な額で、社長さんへは即ペイバックすることができました。そして、全く知らない方からオファーをいただいたわけですけど、それもひょんなことから縁が生まれていて。アメリカで語学学校の帰りにショッピングモールでストリートマジックをやっていたことがあって、その時に手作りの名刺を配っていたんです。その名刺をもらってくれた方がラスベガスのショーのプロデューサーの方でした。その方のところに日本語と英語が使えるイリュージョニストを探しているというオファーがあり、僕に声を掛けてくれたそうです。本当に神に感謝ですよね。

――つい保守的になってしまいますが、こういうお話を聞くとチャレンジしていくことの大切さを感じます。

HARA:人間、守るものなんてないと思っています。夢があって、その夢が人にどう思われるかと不安になったり、炎上するかもと心配したりするのは、自意識過剰だと思うんです。特に日本人って周りを気にしてしまいますけど、やりたいことは全部やったほうがいい。やりたいと思った瞬間にやればチャンスがあるけど、3日経って、半年経ってとなると熱意もなくなる。そうなるとチャンスも遠のいてしまいます。

 そして、夢は周りに言った方がいいです。僕は出会った人すべて、タクシーの運転手さんにも夢を話しているんですよ。絶対どこかで人と人とが繋がっているので。その分、僕が誰かの夢を聞いたら全力で人を紹介しています。こうやって恩を返していけたらいいなと思っています。


――HARAさんが若者たちに夢を持つ面白さを伝えるとしたら、どんな言葉になりますか?

HARA:無理やり夢を持たなくてもいいのですが、最期に人生を振り返ってちょっとでも「楽しかったな」と思うためには、小さな夢はあった方がいいかなと思います。日本って、夢が職業になってしまってるじゃないですか。そうじゃなくて、明日学校に行っておいしい給食を食べたいとか、好きな子のLINE IDを聞いてみようとか、そういったものも全部夢なんですよね。そういった小さなワクワクや行動でいいんです。そうすると、みんな絶対夢はあるはず。そういった小さな「あれしたい、これしたい」という気持ちを抑えないでほしいです。

――夢の捉え方を変える。

HARA:そうです。大人が職業選択という意味で「夢を持て」と言うのが良くないと思います。そして、大人が失敗してもチャレンジする楽しさを伝えれば、子どもも変わると思うんですよ。例えば「うちのお父さん、この間まで会社員だったのに辞めてYouTuberになって、次は旅人になるらしいよ」みたいなことがあれば、「私も変わっていっていいんだ、むしろ変わるべきなんだ」って思えるじゃないですか。でも今の日本では失敗したら終わり、という文化。大人は変わらないのに、子どもにチャレンジしろといってもやらないですよね。よく「子どもに夢を持たせる社会にしたい」と言う政治家がいますが、その人が輝いていたらみんな夢を持つはずです。僕の今の夢は宇宙に行ってマジックをやることなんですが、はじめは「は?」と言われていました(笑)。でも言い続けているうちに信じてもらえるようになってきて。宇宙でマジックのような人に笑われるくらい大きな夢でも、1分先にやりたいことも、同じ夢。この考え、文化が広がっていけばもっといい世の中になっていきそうですよね。

書籍情報

『マジックに出会って ぼくは生まれた―野生のマジシャン HARA物語-』
定価:1,430円(本体価格:1,300円)
発売日:2022年3月14日
ISBN:978-4-09-227256-9
ページ数:224ページ
著者:涌井学
出版社:小学館
商品サイト:https://www.shogakukan.co.jp/books/09227256

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