よしながふみ『大奥』はなぜ日本SF大賞を受賞? 江戸時代が舞台の男女逆転漫画に見る、“想像力のかたまり”たる魅力
このように、他に幾つも例を持った設定ながら『大奥』が他と違っているのは、将軍が女性だったという架空の歴史が、今のこの現実に繋がっているという部分だ。教科書を見ても記録を読んでも将軍は男性ばかりで、徳川家定の妻だった天璋院は女性像の写真まで残している。そうした現実とのつじつま合わせが、架空の歴史の上でどういう理由から、どのように行われたかも含めて考え抜かれているところが、『大奥』を想像力のかたまりとして受け止めさせる。
その上で、徳川吉宗と水野祐之進との悲劇的とも言える関係から、幕末の歴史で公武合体の象徴として挙げられる、和宮と徳川家茂の婚姻に秘められたピュアな関係まで、それぞれの将軍による人間ドラマが繰り広げられる。現実の歴史に改変の跡を残さないようにしながら、男女逆転の社会を描いていくのは、どれだけの苦労があったのか。4月16日に代官山 蔦屋書店で開催の「SFカーニバル」で行われる贈賞式に、よしながふみ本人が登場するなら語ってほしいところだ。