冬季五輪の華・フィギュアスケートは小説でどう描かれてきたか 壁を乗り越え栄光の舞台に立つ選手たちの肖像

 ライトノベルからも1冊。海原零『銀盤カレイドスコープ』シリーズ(スーパーダッシュ文庫)は、天才的な能力と類い希なる美貌を持ちながらも、口の悪さで忌み嫌われていた新人フィギュアスケーターだった桜野タズサが、1人のアスリートとして実力を付け、心を育んでいく様を描いた作品だ。

 「オリンピックになったら突然、何処からともなく湧いて出てきて、ロクな知識もないのに専門家面しちゃって、でも競技なことなんて分からないモンだから、バカの一つ覚えでメダル、メダルって勝手に騒いで押しつけて」という言葉は、2003年の初出から20年近く経った今も通用する言葉で、耳が痛くなる。そんなタズサが一風変わった悲恋を経験し、ライバルたちとの戦いと交流を経て2度目の五輪を目指すほど、心も体も成長していく姿を、全8巻のストーリーから追っていける。

 クライマックス。努力と友情の果ての勝利などという予定調和が生む心地よさを求めてしまいがちな小市民的感性を、スケートのブレードでズタズタに切り裂くような展開を目の当たりにすれば、今が絶頂にある人は、それを実力と過信し調子に乗るのはまだ早いということを思い知る。逆に最下層まで落ち込んで泥まみれになっている人は、決して諦めてはいけないんだと勇気づけられる。

 そんなクライマックスに辿りつくはるか以前で、テレビアニメが終わっているのが心残りだ。制作環境の限界からか残念な描写が続き、最終話は演出として「Alan Smi Thee(アラン・スミシー)」がクレジットされるほどだった。後に『ユーリ! on ICE』が作られフィギュアスケートをアニメで見せられることが分かっただけに、改めて映像化に挑んでくれるところがあれば嬉しいのだが。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる