神田桂一が語る、最新台湾対抗文化の魅力 インディ音楽や雑誌文化と政治の関係を探る
台湾の人々の政治意識
ーー日本のサブカルチャーと違い、台湾のサブカルチャーは、政治抜きには語れないというお話がありました。神田:国民党政権が長く戒厳令を敷いていたということもありますし、中国との軋轢の影響も大きいです。中国は台湾にも「一国二制度」への移行を求めています。民進党は「台湾独立」を掲げていますが、国民党はずっと中国寄りでした。
そのせいか、30代以上の人たちは「台湾はいつなくなるかわからない」「そもそも国として認められていない」という危機意識を持っているんです。だからみんな選挙に行く。2020年の総統選の投票率は7割を超えていました。20代も政治への関心は強いのですが、また少し意識が違って、中国との軋轢を意識せず、当然のように「台湾は台湾でしょ」と思っている層が増えているようです。この人たちは「天然獨」と呼ばれています。
ーー中国との葛藤が大きいのは、香港と同じですね。
神田:台湾には「今日香港、明日台湾」というスローガンがあります。香港で起きていることが、台湾でも起きるという意味です。香港では、2020年に国家安全維持法が施行され、自治が瓦解してしまいました。こうしたことが台湾でも起きるのではないかという危機感を持っている人は少なくないと思います。
タピオカの次に流行るのはアボカドミルクプリン!?
ーー本書では、強烈な人々との出会いについても触れられています。
神田:アークンという人はヤバかったですね(笑)。埠頭に乗り上げた船に勝手に住んでいる人で、もちろん定職には就いていないようでした。初めて会ったときはいきなり蟹を取るのに付き合わされましたよ。今はもう亡くなってしまったんですが……。
あるとき、僕が「どうやってお金を稼いでいるんですか」と聞いたら、突然道路に絵を描き始めて「これを売る」と言うんですね。そんなものが売れるのかと思ったんですが……。ただ、僕もアークンみたいな生き方には憧れるところがあります。
それから滞在中にとある女子大生と友だちになったんです。もう一度台湾に行ったとき、僕と僕の友だちとその女子大生とその友だちの4人で食事をすることになって……。これは合コンじゃないか、もしかして、とひそかに期待しながら火鍋をつついていたんですが、僕の友達が好きなタイプを聞いたら「EXILEのATSUSHI」って返ってきて……。それってもう僕みたいな文系男子のことは眼中にないってことじゃないですか。
ーー(笑)
神田:それはともかく、台湾は、東京と似ているので、海外旅行に慣れていない人にもおススメです。日本で少し前にタピオカが流行ったじゃないですか。僕がその次に流行ると思っているのが、アボカドミルクプリンです。アボカドと牛乳とプッチンプリンを混ぜて砂糖を入れて飲むんです。今、台南で流行っているんですよ。
ーーこれからも台湾をウォッチしつづけますか?
神田:コロナで今海外旅行がしづらくなっていますが、今後も台湾には行きつづけたいと思っています。定点観測をしていきたいですね。
特に今関心があるのは、伊能嘉矩(いのうかのり)という人類学者です。日本統治時代に、台湾の原住民がどれくらいいるのか、どういう人々がいるのかを調査したんです。台湾の人類学に貢献したとして評価されています。この人のことを調べて評伝を書いてみたら面白そうだと思っています。