かが屋・加賀翔が語る、初の小説『おおあんごう』に込めた思い 「自分の経験が人の気持ちを軽くできたら」

かが屋・加賀翔が語る、小説に込めた思い

 お笑いコンビ・かが屋の加賀翔の初めての小説『おおあんごう』が刊行された。タイトルである「おおあんごう」とは、岡山弁で「大ばかもの」を意味する言葉だ。

 本作は、そんな「おおあんごう」が口癖の父親を持つ小学生の少年が、不条理な出来事に対峙しながらも、時には泣き、時には笑いながら生きていく様を描いた作品となっている。

 同タイトルで、2020年8月号の『群像』に随筆を寄稿していた加賀翔が、小説を書くまでに至った経緯や、『おおあんごう』に込めた思いを訊いた。(ねむみえり)

【記事の最後に、かが屋・加賀翔さんのサイン入りチェキプレゼントあり】

小説を書いたことで得た、コント作りとは違う新感覚

ーー小説執筆のお話は、どういうタイミングできたんですか?

加賀:もう一年半くらい前なんですが、「文芸誌『群像』で何か書いてみてもらえませんか」と言われて、まず「えー!? ここに?」って思いました。『群像』ってすごいメンバーなわけですよ、ぼくの好きな作家さんたちが沢山書いている。でも何か書いてみようということで、一生懸命随筆を書いたんですね。とはいえ、自分でもおもろいのかどうなのか、どう見えるんだろうって不安だったんです。そうしたら、編集者さんが「面白かったです」って言ってくれて、しかも「これを長い一本のお話にしてみませんか」と言ってくださったんです。「もしかして小説っていうことですか?!」みたいな感じで始まりましたね。

ーー実際に書いていく中で、編集者さんからアドバイスはありましたか?

加賀:すぐに一回書いてみたんですけど、全然文字数が足りなくて、そこで僕は一度心が折れました。それで、編集者さんに「これは書けないと思います、多分」って伝えたんです。文章書くのも本当に苦手だし、考えても頭が回らなくていっぱいいっぱいになってしまって、どうしたらいいか分かんないんです、って。

 そうしたら、「すごい人でも、自信マックスかと言ったらそういう人は少ないし、むしろそういう感覚が向いてると思います。加賀さんは絶対に書ける方だと思うので、今はこの一作目、“書けない頃もあったな”という思い出を作っているくらいのつもりで楽しんでいただけたら」って、僕のことを諦めずに付き合ってくださったんですよね。なので、「よし! この人のために書こう!」と思いました。

ーー加賀さんは普段ネタを書かれますよね。コントを作る時と小説を書く時って、使う脳が違うのでしょうか?

加賀:コントの場合だと、やっぱり笑いありきなんですよね。でも小説を書いてると、笑いがないということがあるわけです。ウケるのかどうなのかも分からない。それで編集者さんに「面白くないと思うんですけど、これ大丈夫ですかね」って相談したんです。そうしたら「面白くないところがあってもいいんですよ」って言われて。「え!? そんなことがあるの?」って。

 もともと、長いものを書くという発想が僕にはなかったので、「だれている」わけではなく「穏やかである」というような感覚を、小説を書くことで新しくいただきましたね。絶対に自分ひとりでは書けなかったと思います。

 小説を書き終わった時には、コントを作ったときやウケたときの達成感とはまた違う感覚があったんです。でき上がった本を読み返した時に、ここが気になるから直したいなという気持ちはあるんですが、でも2021年の自分にできることをマックスでやったんだから、これはこれでもう良しとして、褒めてあげようという新しい感覚ですね。コントだったらいくらでも直せちゃうので。

ーー加賀さんが、影響を受けた作家さんはいますか?

加賀:僕は、活字に関してはピースの又吉(直樹)さんが全てのきっかけで、又吉さんがいなかったらどの本も読んでないと思います。その又吉さんが、西加奈子さんの『炎上する君』を勧めてたので読んだら面白くて、そこから『舞台』や『漁港の肉子ちゃん』、『きりこについて』とかも読んで。小説って、読む人のテンションにすごく任せるものなのに、これでウケるってすごいなと思って。

 あとはいしいしんじさんも大好きです。いしいしんじさんの『トリツカレ男』が多分人生で一番読んでる本なんですよ。毎日持ち歩いて毎日読んでるみたいな。これから吸収できるものは全部吸収したいと思うぐらい好きですね。中村文則さんも好きなんですけど、すごく暗いし、しんどくて。中村文則さんの本読んだら、もうここにいることすら申し訳ないみたいな暗い気持ちになります(笑)。

 作家ってそれぞれの個性っていうのがすごくあると思うんです。なので、僕もできるだけ自分の色が出るようにしたんです。でも僕、めちゃめちゃ重松清さんが好きなんですよ。かぶんないようにしないとなぁと思って、方言を出したりはしたんですけど、小学生の話って重松清さんの一番得意なところなんですよね。でもそこはまあ重なるっていうのは仕方ないもんとしてやろうと、ひとつ覚悟を持ってやりましたね。


ーー構成は細かく考えてから書きましたか?

加賀:保坂和志さんの『書きあぐねている人のための小説入門』という本に、行き当たりばったりでもとにかく書け、小説が持ってる動き出す力みたいなものに委ねてみるのもアリ、というように書かれてたんです。それで、最初は大枠とかオチとか考えようと思ってたんですけど、全部やめました。余計な背伸びするんじゃなくて、その時思ったことをちゃんと丁寧に書こうという、それだけでしたね。

ーー随筆も小説もタイトルは同じく『おおあんごう』ですが、これは書いてる間に決めたのか、最後につけたのか、どちらだったんですか?

加賀:随筆を書かせてもらったときに『おおあんごう』というタイトルにしたのは、自分の体験をモチーフにして書いたからということだったんですが、小説も同じタイトルにしたのは、随筆がきっかけで小説を書くことになったので、その縁を大切にしようと思って。なので、内容は決まってなかったんですが、タイトルは先にありました。

 今自分で話してて思い出したんですが、小説を書きますってなったときに、最初は全く違う話を書いてたんですよ。でも、『書きあぐねている人のための小説入門』で、これをやっちゃダメ、と書かれてたものが全部当てはまってたので(笑)、ああ、ほんならもうやめよう、新しく書こうっていうことになったんです。

 保坂さんが、会社員をしながら書いた最初の本が『プレーンソング』という本で、それを読んだ時、なんじゃこれってなったんです。手の届く範囲のことしか書いてないし、複雑なことはなにもないんですけど、「ああ、すごいな」って思って。それで、自分も自分の手の届く範囲のことを書こうと思いました。



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