EXIT 兼近大樹と考える、幸せの連鎖を生む方法 「言葉の奥の部分を考えてみるだけで、絶対に優しくなれる」

EXIT兼近大樹が語る、幸せの連鎖

 お笑いコンビ・EXITとして活動する兼近大樹による初めての小説『むき出し』が話題を集めている。

 お笑いコンビの芸人として活躍する主人公・石山が、過去について回想するかたちで構成された物語。幼少期の貧しい家庭環境、祖父や父からの暴力、学校での居場所のなさ。悶々とした気持ちを抱えながら暴力をふるい、自分を正当化していく。そんな負のスパイラルから抜け出し、過去を自戒しながら新しい自分を作り出していく中で直面する、世の中の厳しい目。SNSによって浮き彫りになった分断への問題提起、生まれ変わろうとする人への寛容さ、そして他者を慮る気持ち――。無骨な文章で書かれたこの物語は、不寛容社会といわれる現代が抱える問題を浮き彫りにさせる。

 又吉直樹の書いた自由律俳句とエッセイによって、芸人の道へ導かれた兼近。「小説を書くために芸人になった」と公言する彼は初めての小説を書き終えた今、どんなことを思っているのだろうか。(タカモトアキ)

小説を書く時期は待とうと思っていた


――先日、出演された情報番組の中で「小説を書くために芸人になった」と話されていました。小説家になることが目的であるならば、例えばアマチュアで書く、ブログに書いて書籍化を目指す、文芸賞に応募するなどいろいろな方法があるはずなのに、どうして遠回りとも思えるルートを選ばれたんですか?

兼近大樹(以下、兼近):初めて読んだ本は、又吉さんのものだったんですけど、その20歳当時、こうすれば小説家になれますよって知ることができる環境ではなかったですし、なれる方法を教えてくれる人は周りに誰1人いなかったんです。初めて読んだ本を芸人さんが書いてる、その本がめっちゃ面白い、面白い人になったら本が書けそうだな……って連想していくと、芸人になるしかないですよね?(笑)

――そのルートしか、小説家になる術がないと思っていたんですね。実際、芸人になってから、小説を書いている人があまりいないことに驚いたんじゃないですか?

兼近:そうですね。又吉さん、特別なんかい! イロモノなんかい!って思いました。

――芸人になってすぐ、小説は書き始めなかったんですか?

兼近:書き方はわからないながらも、なんとなくは書いていました。設定のメモ帳とか作って。

――例えば、どんな設定で?

兼近:当時、AKB48が世の中に出てきた時期でアイドルブームだったので、地下アイドルの話を。あのメモ、まだ残ってるかな? 地下アイドルを応援してるオタクが、そのアイドル1人ひとりと関わっていくっていう話で。警察官の娘、警察官が誤認逮捕したチンピラの娘、チンピラの恩師だった先生の娘……本人たちは気付いてないけど、アイドルグループのメンバーが水面下でいろいろとつながっていて。当時知ったばかりで、オムニバス、かっけぇ!みたいな時期だったんで、一丁前にオムニバス形式の話にしようとしてました。で、最終的にオタクはそのグループを応援し続けて卒業コンサートを迎える! 泣ける!みたいな、そんな雑なものを考えてましたね。

――ちゃんとプロットを考えていたんですね。

兼近:けどまぁ、すぐに小説を書けなかったのは(芸人として書けるところまで)到達してなかったから。NSCのスタッフさんとか作家さんに「売れてからじゃないと本は書けない」と言われて、現実を突きつけられたというか。その頃は芸人という仕事も好きになってきてたので、ひとまず真剣にお笑いをやってみて、小説を書く時期は待とうと思っていました。

編集者さんのおかげで人前に出せる小説になった


――今作の構想は、いつくらいから持っていたんですか?

兼近:芸人を題材にしたいっていうのは、芸人になった当初からありました。俺が芸人になってすぐ、又吉さんが『火花』を出して。“芸人の話じゃん。芸人を題材にするってアリなんじゃん!”と思って嬉しかったりもしましたけど、題材が確定したのは1年半くらい前だと思います。

――それまで文章を書いた経験は、ほとんどなかったそうですね。小説を書くこと、描写はもちろん、登場人物の思考や心情を読者へ明確に伝わるように書くのは、初めての人にとってすごく難しい作業だったんじゃないかなと思うのですが。

兼近:マジでむずいっすよね。お笑いって、それこそ面白いポイントを考えていく作り方じゃないですか。けど、小説は読み手に任せなきゃいけないところもある。俺としてはこう書くとこう読んでもらえるし、面白くなるだろうなと考えたとしても、みんながみんな、そう読むわけではない。伝わらなければ、ただの駄文が並んでいるだけになっちゃうって。客観的な視点が欠如してるので、(それを表現するのが)めちゃくちゃ難しかったです。

――では、どんなところから書き進めていたんですか?

兼近:なんとなくパートごとに書いて。これをこっちに持ってきて、これをこうしたらこういうふうに変わるのか、ここは一旦置いといてこっちを完成させておこうとか、パズルみたいな感じで当てはめていきましたね。で、まず登場人物のキャラクターを作ることを優先して、そのキャラクターが最後に伝えたいことをきちんと表現できるように考えて書いていきましたし、そこに編集者さんという客観的な視点が入ることによって、より伝わりやすく、人前に出せる小説になったと思います。やっぱり誰かに見てもらわないとわからない部分ってありますよね。お笑いのネタも一緒です。お客さんに観てもらってウケなかったら変えていってブラッシュアップしていくものなので。あと、合間に入るラジオのトークはどうしても入れたかったんですよ。

――作中にある太字の部分ですよね。あれはどういう意図があって入れたんですか?

兼近:現実とリンクさせたいと思っていたからです。そこに、今まで俺が言ってきたこと、コスりネタをブチ込みました。1年目の時とか雑誌やテレビ、ラジオ、営業……ありとあらゆるところで口にしたことや自分の考えをそのまま書き出したので、EXITの感じが出てるんです。だから、ファンの人や昔から俺のことを見ている人は、こういうこと言ってたなって感じるんじゃないかなと思います。

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