『呪術廻戦』は無理ゲー社会を描くーー「死滅回遊」が強いる、理不尽なルール
「死滅回遊」は呪術師同士に殺し合いを強要するデスゲームで、伏黒は「未曾有の呪術テロ」と言っている。
高専の地下最深部に隠遁する不死の呪術師・天元は、羂索の目的は「日本全土を対象とした人類への進化の強制」で「死滅回遊」はその準備のためにおこなわれる儀式だと言う。
このあたりは、スケールが大き過ぎて内容が理解できないため、今はスルーしているのだが、おそらく芥見が「死滅回遊」という複雑なゲームを用意したのは、謎解きや考察を読者に誘発して関心を引くためではなく、突然「複雑なルール」が洪水のように押し寄せて来る困難そのものを描くためではないかと思う。
これは物語序盤から繰り返し描かれていたことだ。術式を用いた複雑な異能力バトルや特殊なルールの元での戦いに説得力があるのは、面白いバトルを描くためのアイデアであると同時に、複雑で理不尽なルールが社会の隅々まで広がり「無理ゲー」と化している日本社会と合わせ鏡となっているからだろう。
それが18巻で強く現れていたのが、呪術師・日車寛見の過去を描いた第159話「裁き」だ。
かつて日車は、無理筋の刑事弁護ばかりを担当する弁護士だった。殺人容疑をかけられた大江圭太を弁護した際、一審で無罪を勝ち取るが、二審で無期懲役の有罪にひっくり返されてしまう。
「日本の刑事裁判の有罪率は99.9%」という検察が圧倒的に有利な刑事裁判の壁に直面し続けた日車は精神的に追い詰められ、それが原因で呪術師として覚醒することになる。
脱サラして呪術師になった七海健人もそうだったが『呪術廻戦』に登場する大人はとても魅力的だ。それは彼らが社会の理不尽さに直面した時に感じた心情を丁寧に掘り下げているからだろう。それは日車の過去を描いた「裁き」も同様で、一話の中で少年漫画では中々描かれることのない裁判の問題を描ききっており、独立した短編としても濃い内容となっている。
「理不尽なルール」が最大の敵だからこそ、虎杖と伏黒は「死滅回遊」のルールを受け入れてゲームの中で勝利を目指すのではなく、「新しくルールを追加すること」でゲームの構造自体を変えようと考えるのだろう。とても『呪術廻戦』らしい戦い方である。